Long may you run

- 末永く走り続けられますように -

第三回 彩の国 100km 完走記(2/2)【southの闘い】

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前回からの続き。

⑥桂木観音58.0km

ニューサンピアを出て、走りながら Garmin と格闘。諦めて再度計測スタートはしたが、充電しているとまた落ちている。充電する→充電されてない?→落ちる、の繰り返し。
前半時点で充電残42%ということは、少なくとも70-80%には戻したいところ。もし充電が全く出来ないとなると、終盤でのペース確認・時刻確認が全然できないではないか…

あとから思えば時間はスマホで確認出来るのだが、焦ってしまって気が回っていない。

そうこうしている間に、山へ突入。暗さの中、足場を慎重に確認しながら登る、時計を確認するとまた落ちている、充電出来てない、レインウェア暑い、脱いでみたら寒い、焦る…

とまぁそんなことを、後から思えば未練がましく長々とやって無駄に心労を重ねてしまった。
桂木観音まではたった7kmだったのに、こんなことをして気が散っていたので、とても長く感じた。

4kmほど前進した辺りで、未練を断ち切った。

充電を諦め、延命を計る。
GPS1秒ごと計測+GLONASSモードを捨てて、UltraTrackモードに切り替える。思った以上にルートoffが頻発し、1分ごとのGPS捕捉がこんなにひどいとは、と凹む。
バッテリーの消費を睨みながら前進するが、思ったよりもまだ消費が早い。
説明書は隅々まで読んでいて、確かbluetoothが消費すると書かれていたなと思い当たり、スマホとの連携をoff(今更!これ次回からスタート時に必ず切る)、更にルートガイドも捨てる。

計測精度は落ちたものの、気が散る要素が減ったことで、晴れ晴れした気持ちに。レースへの集中力を取り戻す。

途中、大高取山へ向かう分岐があり、最後にここにまた差し掛かるのかなと横目に見ながら、ようやっと桂木観音エイドへたどり着いた。

稼いだ貯金がわずか5分に減っていてまた凹みつつも、楽しみにしていたシチューをパクパク食べる。夜のエイド開設・保守、本当にありがとうございますという気持ちで、必要なものを全て補充する。流石に夜は寒いので、ソフトフラスコを無理に満タンにする必要もなくなってくる。

この先は試走で知った道だと思うと、気持ちは戻ってきていた。

高山不動尊66.5km

桂木観音エイドを出てすぐのところで、二人組のランナーさんと会話。
二人とも試走しておらず、夜への不安に加えて、この後に関八州見晴台があるからここからずっと登りなんですかね、と怯えていた。
実際は桂木観音から出てすぐは走れる区間。むしろ走っておかないともったいないようないいトレイルなので、そう伝える。また、関八州見晴台も、想像しているほどきつくないですよと添えて、ではお先にと闇夜のトレイルへ。

疲労と暗さで、試走の時のように、風を切って駆け抜けるような走りは流石に出来ないが、それでも元気に走る。途中でコースが急に左側に上がるところでコースアウトしないようにせねば、とか考えていて、集中力も切れてない。

途中で里に降りた時に、思ったよりも疲労があるなと感じる。ここまでまだ60km超。疲労はあって当然だが、足の張りが抜けなくなってきていた。

それでも、試走で知っている道で良かった。関八州見晴台を力強く通過。

関八州見晴台からの息を呑む夜景

静寂の関八州見晴台。圧巻の夜景に息を呑んだ後、ここではあまり休まないと決めていたので、即座にツツジに囲まれた下りへ。下りも走れている。小さいステップで、ブレーキを掛けずに、水が流れるように—。そして高山不動尊エイドへ。予定時間より40分近く早い到着だった。

見渡せばかなりグロッキー気味の人もいるが、食べないことには走れない。
プリンがうまい!ペロリと二つ頂いた。丁寧に作られたサンドイッチも美味しい。パンは固いが問題ない。
カフェイン入りカプセルも、ものは試しで頂いて、水分もしっかり補充。

滞在10分ほどでスタート。西吾野(※にしあがの、と読む)駅までは知った道で走れる自信があったので、何人か抜き去りながら駆け下りてゆく。

⑧竹寺76.6km

自身最長走行距離を超えて、まだ脚は動くが、西吾野駅からの未試走コースに出た辺りから、急に歩みが遅くなる。知らない道というのが、これほど身構えさせるとは!そして睡魔が訪れる。

知らない道→ペース感分からないので落とす→ゆっくりペースで眠い…

再び山へ入る前に、とにかく食べておかねばと、子の権現までの区間用にバナナを一本。
バナナはいつでも食べられる。一房持って行きたいぐらいだ。

なぜか草が濡れている山へ。Trans Alps F.K.T II にはつま先部分に若干の防水コーティングがあって、濡れに強いのでガシガシ進む。
しかし眠い。すると、歩き・走りが雑になってくる。無駄に消費しているのだ。だが山に入った以上、眠りやすい場所もない。

虫がいなきゃ寝ちゃおうかなと思い、足下を見ると、小さな昆虫と目が合った。普段静寂の中に住む彼らからすると、さぞかし迷惑な客人達であろう。加えてさっきから茂みに何か鳥獣がいる気配もする。
ハセツネの時は全く眠くなかったから、眠くならないと思ってたんだけどな、何が違うんだろう、と訝しみながら進む。

遙か先にヘッドライト。遙か後方にもヘッドライト。一人、時々星空を仰ぎながら、登る。想像していたよりもタフな登りを前進しつづける。

子の権現の茶屋で休むかどうか決めていなかったのだが、到着してみたらあまりにも茶屋がゴージャスで、そして竹寺まで一気には行けなさそうな疲労状況だったこともあり、一旦腰を下ろす。
周囲のランナーはというと、うなだれて座っている人、一瞬チラ見して先を急ぐ人、食うべきか食わざるべきか悩み続けている人など千差万別。

自分は悩まず「肉うどん一杯!」とオーダー。

こんなに美味いうどん食べたことない

500円だったかな。いやもう、生涯食べたなかで一番うまいと思わせられる、染み入るうどんだった。豚肉も鶏肉も入っていて具沢山。
レーススタート以降、はじめてしっかり食べた。食べている様子につられてか、他の人もうどんを注文し始める。
身体もしっかりと温まって、さぁ竹寺エイドへ。

しかし、脚の疲労はかなりの状態。それ以上に、眠気との闘い。なんとか必死で竹寺エイドへ到着。貯金は13分ほどと大きく減っていた。先ほどうどんを食べたこともあって、竹寺の豚汁は食べず、少し補給して、あまり休まず前進することに。

⑨吾那神社87.3km

思い返せば、自分にとっての彩の国100kmは、この区間において極まった。

竹寺エイドを出た後は、疲労と眠気を引きずって朦朧としながら、とにかく意識が飛ばないように、飛んだら落ちて死ぬぞと自分を戒めながら前進する。

途中、少し里に下りて、あぁここが簡易郵便局か、確かに水道あるなぁと見掛けたそのすぐ後で、一旦睡魔を断ち切らないと、次の山は超えられないと決断。山中と違って里ならどこでも寝られそうだ、見る限り虫もあまりいない。仮眠を取ることにする。

道路で寝ていると車に轢かれる恐れがあるので、人の家の私道の入り口へよっこらせと腰を下ろさせて頂き、大の字になる。星空を見上げる。美しい星空。Atuさん、星見えましたね、と思った矢先に、一気に眠りに落ちた。
浅い眠りのため、ランナーが通る度に少し目が覚める。竹寺で抜かした女性ランナーが抜いていく。悔しくはなく、敬意を表すのみ。

15分後に完全に覚醒。よし。よし、行こう、行けると自分を取り戻して、再び走り出す。
眠ったことで脚の疲労がたまるかなと不安だったが、むしろ少し回復している。

次は大高山だ、そう遠く無いはず。そもそも東吾野まで11kmしかない、近いぞと考えて前進する。

しかしその後は、脚の疲労が容赦なく、山へ突入した辺りから牛歩の歩みとなってゆく。

80km、これが自分の脚の限界だった。脚が完全に終わってしまった。

脚が終わる状況はこれまで幾度となく経験しているので、特に焦りもない。いっそEVE A錠でも飲んだろか、でも飲んだら痛みのリミッターが効かずに、明日以降怪我してそうだからやっぱやだな、とか考えながら登ったり下ったり。果てしなく登ったり下ったり。

かなり壊れた脚を更に壊したうえで、山頂らしきところに着いたので、ここが大高山か、と安堵した。

ということは次が天覚山か、容赦ないアップダウンだなと思いつつ、
かなり壊れた脚を更に壊したうえに、トドメを刺すかのように破壊して、山頂らしきところへ。 もうかなりきつかった。後は東吾野へ下るはず、と思っている。

しかし、なぜか下りが始まらない。むしろ、登る。えげつなく登る。
もう脚には痛みしかないので、一歩進むにも激痛が走るが、痛みは重要ではないから頭の片隅にどけて、次には何時に補給をするぞ、まだジェルも残っているぞ、悪心が起きていないのは幸運だ、とポジティブに攻めの気持ちで進む。

登りが永遠とも思える。この登りはどこに向かっているのだ、いつ東吾野への下りが始まるのだ、と思いながら、小さな山頂へ。しかし前を見ると、これでもかというように、先にはまだ登りが続いている。

この山頂に刺された、小さな案内看板を見て唖然とする。
「→至 大高山」と書かれているではないか。

恐怖を感じた。全精力を投じて、這いつくばって登っていたのは、大高山でもその先の天覚山でもなく、名も無き前山だったのだ!

ここまで消耗しきっているのに、まだ竹寺エイド〜吾野エイド間の半分も来ていないという事実を理解出来ず、気が動転した。

ここまでと同じぐらいかそれ以上辛い感じで、大高山と天覚山へ?もう何も力、残ってないのに?
時間的にもかなり遅れている。そろそろ吾野神社が見えていたい時間帯なのだ。

進むしかない。まず大高山は、その後はそう遠くなかった。すでに遠くに日の出が見える時間。このペースだと24時間は難しいなと悔しい気持ちに。しかし切り替えて、27時間に目標を再設定して進む。

天覚山へはストレートなのかなと思ったら、全く容赦ないアップダウン。なんというコース!
ここ、悪名高き「飯能アルプス」を試走していなかったことを心から悔やんだ。知っていたら気の持ちようが違っただろう。

果てしないアップダウン。終わりが見えない。 かなり壊れた脚を更に壊したうえに、トドメを刺すかのように破壊して、メタメタにしたその上でたどり着いたのが、この光景。

そろそろモグさん、Atuさん、コーイチさんはゴールしてるかなと思い馳せながら、ようやく東吾野へ降りてゆく。

東吾野駅周辺では、ベンチで休んでいるランナーが数名。もうエイドが近いことは分かっているはずだが、動けないのだろう。

帰路に着いているランナーがいた。リタイアしたのだろう。
目を見て、お互い軽くうなずいて、言わなくても通じる言葉を交わしながら、彼は駅へ向かい、自分は先へ進む。

予定より1時間35分遅れと大きく崩しながら、吾野神社エイドへ到着。もうヘッドライトはいらない明るさ。
エイドのスタッフの皆さんも流石に疲れていて、あくびをして眠そう。ただただ、感謝しかない。
鳥うどんを一杯頂いて、もうあまり食欲ないな、こんなことではUTMFは走りきれんなぁ、と自分の弱さを嘆きつつ、新たな課題を認識する。
10分ほどで補給と休憩を済ませ、エイドを出る。

まだ87km。あと20km弱もある。脚には痛みしかないが、唯一の救いは、試走で知っているコースであること。
イメージすることが出来る — ユガテ、北向地蔵、一本杉、鼻曲がり、そして桂木観音へ戻る —。

北向地蔵までは距離感を感じずにすぐに辿り着けたが、ここからの体感は試走の時と随分違って、長く長く感じる。
一本杉へ向かう登りで、さっきのエイドで見かけたランナーが、下のロードをなぜか元気いっぱいで走っている。
これは盛大なロストなのか、それともショートカット確信犯なのかと悩ませられながら、もう声を掛けるにも遅いので、忘れることにして自分は登る。

語らぬ一本杉。この写真は試走の際に撮影した一枚

一本杉までは恐ろしく遠く感じた。ただ、気持ちのいい朝だった。精魂尽き果てているが、今日もいい天気、絶好のトレイル日よりだな。いいトレイルだな、いい木々だな、また元気な時に遊びに来たいな、と考えながら歩く。もう走ることはできない。気持ちは走っていて、早歩きはしているが、もう走った時の着地を支える力はない。

あと15km。ふいに100mileのランナーが現れて、元気におれを抜かしてゆく。圧倒的だ、すごい。尊敬と畏怖の念。south一週目なのか二週目なのかは分からないが、とにかく元気に駆け下りてゆく。その後ろ姿を無言で見送った。

⑩桂木観音97.8km

二度目の桂木観音エイドへの到着は当初24時間プランから2時間20分遅れているが、27時間はまだ諦めなくていい時間だ。
あと8kmほど。試走はしなかった、大高取山へ。でかいらしい。寄らずにもうゴールへ行かせて欲しいぜ、と恨めしく思いながらも、後半戦をスタートした時に通り過ぎた大高取山分岐を抜けて、大高取山へと挑む。

最後の登りと書かれているが、これがまた長いのだ

もう、誰とも競争していない。抜きたい人もいない。ずっと先にランナーの姿は見えるし、ずっと後方にも見える。各々が、自分だけと戦っている。

運営側がこの大会で、最後に味合わせてやろうとぶつけてきた、全く優しさのカケラもない登り。笑わずにはいられなかった。ここまで十二分に過酷だったのだが、最後にもタフな登り。
それをしっかりと受け止めて打破の後、大高取山の山頂を踏んだ。

山頂には応援の方が3人いてくれて、ランナーを一人ずつ迎え入れ、労っていた。
運営がこの大会の最後に見せたかった、絶景。好天もあって、十分に堪能出来た。
応援の方にのせられて、切り株の上に立ってパチリ。

viva, viva !

あとは下り。残す必要ももうないぜと思うと、意外と走れるもんだ。
痛みを受け入れながら駆け下り続け、すでに気温が上がり始めているロードも走り続けた。
途中、前の人に追いついてしまって、とはいえ抜かすのも忍びないので、その方達と喋りながら後方を陣取り、その順番でゴール。

26時間13分だった。また一つ自分の弱さを知り、少し強くなれたレースだった。

振り返ってみて

まず生きて帰ってこられたことに何よりも感謝したい。遭難や死は、レース運営側にも家族にも迷惑を掛けすぎて辛い。

100mileを思えば、50km, 70km, 100km どれも通過点に過ぎない。
今回は、100mileシミュレーションとしては甚だお粗末。
一年後には、100km走ってまだまだ余力があるレベルに達していなければならない。あらためて自身の身の程を知り、課題を認識できた。

今回最大の発見は、一度もリタイアしたいと思わなかった、その精神力。
これまでのトレイルレースでは、実は毎回思っていた笑。
昨年のハセツネでは第一エイドで。きつい上にやや水不足だったので、ここでやめようかなと弱気が頭をよぎった。
三河パワートレイルでも、どのエイドならリタイア可能か気に掛けていた。リタイアしたいからといって、どこででもレースを止められるものではないので。
ただ今回は、タフな局面が続きながらも、不思議とリタイアが頭をよぎらなかった。

そういう心理だった理由は自分でもいまいち分からないのだが、おそらく完走への執着心に他ならないと思う。
UTMFに出たい・完走したいという思いが、これまで以上に determinaton / 断固たる決意を引き出していた。
それさえあれば、そしてこの彩の国100kmをクリア出来たのであれば、また今後もタフなレースに、挑んで勝てるかもなと思う。

Garminトラブルに振り回されてレースに集中出来なかったのは、つくづく情けなかった。 文明の利器に頼りすぎて走っている。
そしてこういった事態の予測とリカバリープランが抜けていたし、クイックな見切り決断ができなかったのも未熟。

試走の有無は明暗を分けると改めて認識した。振り返れば後半、恐怖の飯能アルプスを一度でも走っていたら、気の持ちようは違っただろう。

最後に、本大会の運営、ボランティアの皆様、素晴らしい場を大会のためにお貸し頂いた、地元自治体や山林所有者の方々、
沢山の事前情報を与えてくれたブロガーの方々、
共にレースへ参加し、当日声を掛け合えたもぐさん、Atuさん、コーイチさん、
Twitterを介して、気に掛けたり、応援してくれた皆様、
そして何より、エスカレートしてゆく父のアドベンチャーを、いつも許しながら見守ってくれている家族に、心から感謝したい。

一人で走るシーンは多かったけど、ひとりぼっちでは、走っていませんでした。