Long may you run

- 末永く走り続けられますように -

第六回 上州武尊山140 完走記 1/3【前編】

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ゴールゲート。本当に遠かった、ここまで。

第六回 上州武尊山スカイビュートレイル140、きっちり完走してきました!

時間は34時間24分、総合順位380位(出走848人)。

なお今回の完走率は68%だったそうです。2/3のランナーがあれを完走するんだから、出走者のレベルは本当に高い。

今回このレースへエントリーした狙いは三つありました。

一つ目は、UTMBへ向けた模擬戦です。比較すると、

  • 上州武尊山スカイビュートレイル140
    • 143km / 累積標高差9200m / 制限時間38時間
  • UTMB
    • 距離171km / 累積標高差10300m / 制限時間46時間30分
  • UTMF
    • 距離160km / 累積標高差8000m / 制限時間46時間

まず、上州武尊140を完走できれば、UTMFの完走については何ら不安がないです。どう見ても上州武尊140の方がヘビー。
UTMBは上州武尊140よりはきついのは間違いないですが、山をあとひとつ・ふたつぐらい。
MF → 上州武尊140 → MB はステップアップとしてはよさそう。

二つ目が、UTMBのためのポイント獲得。ゴールすれば6pt。幸運なことに、UTMBへのプレエントリー権利(※二年間で3レース計15pt)の獲得となります。

三つ目は、噂によれば上州武尊山スカイビュートレイル100mileを企画中?
もしかすると、140の完走者か、相応のレベルの実績があれば、次年度以降の100mileエントリー権利を得られそうです。

今回はこの三つの思惑を胸に、レースに挑みました。
しかしながら、当然ではありますが楽なレースではなく。個人的には、過去最大級のキツさでした。
そこそこ走力も経験も高まっているはずの自分が、まるでトレイルランニングを始めたばかりの頃のレースのように、メッタメタにされた(笑)。

今回は、前編・後編・ギア編の三回に分けてレポートをお届けします。

テーパリング

春のUTMFの際のテーパリングに手応えを感じていたので、ほぼそれを踏襲します。

●レース三週間前

  • 最後の追い込み高尾山練習。これ以前から、最低週一回は山に入るように。どれだけロードで追い込んでも、トレイルレースの練習とは趣が違うことを身をもって知っている。山練は大事。なおもっとも負荷を上げたのは、4週間前の富士山練
  • 3〜2週間前の練習量は、通常の週ラン距離の70%に落とす

●レース二週間前

  • 2〜1週間前の練習量は、通常の週ラン距離の50%に落とす
  • 最後の山練習。高尾山、4時間ほど

●レース10日前

  • カフェイン抜き開始。辛い!!

●レース一週間前

●レース3日前

  • CoQ10 ローディングをブースト。標準摂取量の3倍に。

レース5日前から、Garminのトレーニングステータスは「ピーキング」に変化し、過去最高のVo2Maxを計測したため、上手くいっているな!と実感。

またこの時期に、仕事をレースに持ち込まないよう、きっちり納品し、心穏やかな状態にします。
仕事のあれこれが直前に残っちゃうと、精神面で引きづられてしまうので。

一週間前にはレースのための準備・調達もほぼ終えておきます。細々としたものを後から思いついたり、思い出してしまうので、一週間はバッファを設けるようにしています。レース計画も、過去リザルトを元に設計してゆきます。

なお友人数名にレスをもらったのですが、下記の食糧の小分けテクニックについては、後日別の記事で解説します。
我ながら、あまりにも完成度が高まってしまい、便利過ぎたのでノウハウをお伝えしたい(笑)。

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補給食の管理テク。後日、別記事投稿します

前日受け付け

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上州武尊山140,30ブリーフィングの様子

前日に群馬県川場村へ。東京からこんなに近かったとは💦受け付け、ブリーフィングを滞りなく実施。

なおUTMFの経験上、事前にバックパックに綺麗にパッキングしたところで、どうせ必携品チェックでカバンをひっくり返さなければならないので、事前パッキングはしないことに。おかげでスムーズに必携品チェックが済みました。

ブリーフィング終了後、おりょーさんに会ってご挨拶することができました!
今回のレース(もちろん同じ140にエントリー)を含めて、UTMF、ONTAKE100など、ウルトラディスタンスで百戦錬磨のおりょーさんは、華奢で穏やかな雰囲気の女性でした。

明日は2:30には起きたいので、早めの入浴・食事を食べて、無理矢理20:00には床につきます。

AM4:00 レーススタート!

雨、降っていない!最高に嬉しい。もうこの3連休は雨確定、みたいな諦めがあったので。
武尊の神様が粋な計らいをしてくれたのかな。
会場に一番近い駐車場が混むのは予想していたので、早めに移動して駐車後、焦らず身仕度。

AM3:00にデポが締め切られる頃にはもう、スタート地点に向かいます。良いポジション取りをして、序盤は突っ込んでゆく作戦です。

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スタート約1時間前

スタートライン30m以内のところに陣取って、横を見たら目の前にわたDさんw ドラゴン・メイさんもいらっしゃいました。
すると側にウルトラマラソニストNAGAOKAさんも。今日はフィアンセがサポートしてくれるそうです。うらやましい!

そうこうしているうちに、MCの盛り上げもあって会場のボルテージ、そしてランナーの密度も高まってゆきます。

若干しのびないですが、過去ブログ記事から、スタートしてすぐに夜明けという情報を得ていたので、自分はヘッドライトは付けていませんでした。夜明けまでの最初1.5時間は他の人のライトを頼りに走るという、漁夫の利作戦w

気持ちは落ち着いていて、140kmを走る恐怖感よりも、どこまで出来るかなというワクワク感の方が勝っています。
そうこうしているうちに、カウントダウン、そしてAM4:00、ついにスタート!

スタート〜A1〜剣ヶ峰ショック

スタート後、ざっと前方100人以内にはいそうだなというポジションで走る。
このセグメントは、どのレースでも速い(あとでGarminのログを見たら、4'50"/km〜5'20"/kmぐらいで緩い登りのロードを走っていた)。

しかし我ながら絶好調で、まったく苦しくない。心拍は140bpm、普段のイージージョグかそれ以下。全然きつくないし、汗も出てこないぐらい。
ほどなくしてトレイルに入ってゆくが、リラックスして走れていて、ピーキング完璧だったなと感心。

ヘッドライトを付けている二人のランナーの間を走る。「名付けてライト・サンド走法だな😎🎸」とか、ふざけたことを妄想しながら走る。

空の様子から、しらじらと夜明けが近づいているなと感じた頃に、Garminの一時間インターバルアラームが鳴る。これまでのレースでも、練習でも、一時間に1回アラームを鳴らして、機械的に補給するようにしている。周囲のランナーにも同じ補給戦略の人がいるようで、そこら中でピーピー鳴ってる。

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夜明け。もうすぐA1エイド

A1には「良いペースで2時間」の目標。しかし、薄々そうかなと思ってはいたが予定より早く、時刻は5時38分、1時間38分で到着できた。疲労感はほぼなく、計画通りに補給してすぐに出発。

再びトレイルへ。本レース最初のピーク、剣ヶ峰へ向かってゆく。隊列は少し空きつつも、高い走力のランナーが多く、ガシガシとお互いプレッシャーを掛け合いながら進む感じが楽しい。

空が見えてきたところで、剣ヶ峰が遠くへ現れた!快晴!最高の景色。

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明らかにあれだなと分かる剣ヶ峰

標高は2000mほど。周りを見渡せば、息をのむ絶景が見渡せた。

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遙か向こうまでよく見える。剣ヶ峰付近の尾根より。

ほどなくして剣ヶ峰が近づいてきた。手を使って登る、急登だ。

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剣ヶ峰へのラストの登り

登り切ったところで、剣ヶ峰頂上は小さなピーク。しかし景色は最高!

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剣ヶ峰からの素晴らしい景色

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今日は雨だとばかり思っていたのに!

さて、「剣ヶ峰の下りはヤバすぎる」というのは事前に散々聞いていたし、YouTube でも過去大会の様子を見ていたものの、確かにとんでもない下りが待っていた。

ポジション的にはゆっくり降りるのが許されないため、気をつけながらも止まらずに降りてゆく。および腰になっているランナーには、ひと声掛けて抜いてゆく。

まるで落ちるように降りるランナーがいて、目を奪われる。動きが不規則で読めない!しかしこけない。何なんだこの人は。緩急がすごい。ベートーベンと名付けて、ハラハラと見守りながら自分も下ってゆく。

前日までに雨が降っていたこともあり、剣ヶ峰の下りはスリッピー。岩や木が濡れていて、なかなか危ない状況...に対して、注意深く進んでいたのに、やってしまった。

高さ1m程度の岩場を降りるときに、接地で滑って、落ちてしまった。

左の背面を、思い切り岩に刺した。痛みで思わず大声が。スーパー痛い。筋肉の痛みと、擦った皮膚の痛み。
痛すぎて目がチカチカする。少しスピードを落とさざるを得ず、後ろの人を先に送り、ゆっくり降りてゆくことに。

これはまずいなと。ただ、打撲系の痛みは多分、しばらく経てば収まってくるはずと考える。幸い出血はあまりないみたい。ペースを落として下り続けることに。

15分ほど経過。一歩走るとズシン、もう一歩走るとズシンと、背中全体と内蔵にひびく痛みがある。

恐ろしい急登が終わり、ようやく走れる斜度になってきたので、背中の痛みが許す限りのスピード域で走る。

少しガレた下りを、ここは小さいサイドステップで... とした時に、痛恨のミス

左足をサイドステップ気味に置いたときに、おそらく太い木の根があり、そのまま脚が左に流れ、身体は右に向かって宙を舞っての大転倒。一瞬のことで、出来たことは手を着く努力と、視界に岩が見えたので少しでも首をもたげて頭を守ること。しかし、右側頭部をしこたま岩にぶつけながらの大転倒となってしまった。

あまりの痛みに、悶絶。声がでない。ほどなくしてやってきた後続のランナーも、うずくまる自分を見て「大丈夫ですか?!」と声を掛けてくれるものの、応答が出来ないほど。ジェスチャーと目配せをして先へと促し、自分はその場で回復を待つ。

1分ほど経ったか、歩行できるようになった時には、右側頭部と右耳がぐわんぐわんと痛むことと、顎の裂傷。幸い出血は少い。
両手の平、特に小指が打撲でうっ血しており、右手小指については、曲がらなくなってしまっていた。

とにかく痛い。走れないので、とぼとぼと歩きながら、後続のランナーに抜かれてゆく状況に惨めさを感じる。
しかし一方で、逆側にこけていたら沢に転落していただろうし、少しでも頭部のダメージを減らせたのは良かったなとか、ポジティブにも考える。

先ほどの背中の打撲と合わせて、痛みに耐えて、歩いたり、ゆっくり走りながら進んでいると、左膝の外側も痛むことに気づく。

剣ヶ峰の激しい下りで早々に痛めてしまったのか...自分は右脚の膝が痛みがちなので、左脚を先に着くようにしているため、その可能性がある。あるいは先ほどの大転倒が関係しているのか。
直感的には、この痛みが一番まずそう。打撲の痛みはある程度引く。しかし膝はそうはいかない。

やれやれ、これはしんどいレースになりそうだな!と。 まだ23kmの序盤戦。残りは120kmもあるのに。

これが練習なら、今日は下山して休もうと考えるところだが、今回はハナからDNF・リタイアの選択肢は持ち合わせていない。必ず完走する、それだけを考えて準備してきた。

しばらくは、ダメージを注意深く感じとりながら、遅いペースで進み続けることにした。

A2宝代樹エイド〜A3ほたか牧場

ガレた林道を下り続け、武尊山への登り口を横目に遅いペースで下り続ける。しばらくするとロードへ。A2〜武尊山のすれ違いパートだ。

W1ウォーターステーションにたどり着くと、休んでいる人も少なくないが、かなり抜かれてしまった自分に休んでいる暇はない。転倒時に泥だらけになった手や顔を手早く水ですすいで、すぐに飛び出す。

ほどなくして先頭ランナーが折り返してやってきた。なるほど、自分の10kmほど先を走っているらしい。思わず「ファイト!」と声を掛ける。その後もちらほらと、折り返してくるトップランナーとすれ違う。その度に「ファイト!」と声を掛ける。時折、逆に「ファイト!」「ガンバ!」と声を掛けてくれる人もいて、すごく嬉しい。

痛みが身体に響く。元気に走れないので、ゆっくりロードの坂を走り続ける。周囲には歩いている人も少なくないが、大きく遅れた自分に歩いているヒマはないので、痛みに耐え得る限りは走り続ける。

A2宝代樹エイドには、8時55分に到着。ホッとしたのも束の間、目の前のゲレンデを見上げて、焦りの方が強かった。この身体の痛みで、こんなでかいスキー場、登りきれるだろうか。 待ちにまったストック解禁。ストックを組み立ててみたものの、手の平の痛みでストックを握ることすらできない。

先ほどのウォーターエイド同様に、休まず手早く補給してゲレンデへ飛び出した。
ストックを活用して軽快に駆け上ってゆく人を見て恨めしく思いながら、自分のペースで登り続ける。痛みで顔を歪めながら、永遠に感じるゲレンデを登り続ける。

頂上のリフトにたどり着いたときの消耗度たるや、半端なかった。痛みに耐えていたので、消耗が激しかった。
右脚の踵にピリピリとした痛みがあるのも気になっていたので、抜かれるのは気になるが少し頂上で休むことにする。
踵は何のことはない、珍しいのだが靴擦れだった。ひとまず Protect-J1 で応急処置して、様子を見ることにした。

ゲレンデからの下りに差し掛かると、思いのほか大腿四頭筋にダメージがありテンポよく下れない。A2に向う最後の登りロードとこのゲレンデで、消費が早かったらしい。これ以上ダメージを増やさぬようにと慎重に下ってゆき、再びすれ違いパートへ。

まだまだ多くのランナーが、A2へ向かって真剣に走っていた。辛そうな表情のランナーも多い。確かにこのパートはしんどかった。思わず声が出る。「ファイトー!」

すると、ハッとした顔で驚くランナーや、瞬間で「ファイト!」と返してくれるランナー、言葉になってないがおそらく感謝(...ざいます!的な)を返してくれるランナーが。まるで応援合戦。

すれ違う度に「ファイト!」「ガンバ!」「ナイスラン!」と声を掛け続ける。ある女性ランナーにも「ファイト!」と声を掛けたら、返ってきたのは「あ!ぬーいちさーーん!」だったので、驚いて振り返ったらおりょーさんだった!ご友人のランナーと併走しながら、元気な様子に見えた。
自分はというと、実はかなり身体が痛く、頭も回っていなかったので、気が利いた言葉も出てこず、笑顔でガッツポーズ&手を振るのみだった。

そんな感じで、エールを送っているつもりが、沢山の人やおりょーさんから逆に力をもらって、遅くはあるが登りも走り続けられた。応援の力は、尊い

武尊山への分岐に入った後は、徐々に抜かれなくなってきて、逆に数人抜き返しながら走った。背中も手も側頭部も靴擦れも、痛みはするが、スコット・ジュレクは「痛みは、頭の外へ追いやろう」と言っていたので、自分もそうしよう、と考える(でも、どうやって?とも思う)。

ズキンと痛む度に冷や汗は出るし、尋常じゃなく集中力が必要で、疲労度が高い。痛みがなければ飛び越えられる小さな障害物も、慎重に超える。少しでも滑ったら激痛が走るため、慎重に足を置く。

やっとの思いで武尊山頂上にたどり着くと、正直言って疲労困憊だった。情けないが、思わずへたり込んでしまった。

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武尊山頂上、獲るには獲った

しかしながら、武尊山頂上は素晴らしい絶景!見ることが出来て本当に嬉しい。

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武尊山山頂より。圧巻の景色

少し休んで落ち着いた後、再開し、武尊山からの下りを開始する。

消耗度は甚大で、ほとんどのランナーが元気に走りながら下ってゆく中で、ひとりのろのろと走ったり歩いたりする。

残り100kmを示すカンバンが出現した。この身体で、残り100km... あまり考えないようにする。

上で休みすぎたせいか、稜線の吹きすさぶ風が寒すぎる。早めに対処と考えて、一度立ち止まってウィンドシェルを取り出していると、側で休んでいたハイカーの方に話しかけられた。

「頂上は混んでましたかね」
「はい、今日はすみません、トレイルランナーで混雑してます」

「そうですか。今日は皆さん、どちらから?」
川場村から、走ってきました」

「え?それは...かなりの距離があるんじゃ?」
「そうですね、朝から8時間30分ほど走り続けて、いま40kmほどですかね」

「ええっ?それで、どこまで行くんですか?」
「ええと、東へぐるっと回って、再び川場村に戻ります」

「それを、今日中に?」
「うーん、トップ選手は今日中なのかな。私なんかは、明日の夕方ですね」

「??どこかで寝るの?」
「いえ、寝ている暇はないんです」

「.....はー。皆さんとんでもないことをしているんですね」
「すみません、騒がしくて」

「いやいや、お気をつけて。頑張ってください」
「ありがとうございます、そちらもお気をつけて!」

イカーさんに別れを告げて、長い下りを走り続け、A3ほたか牧場エイドへは水切れギリギリでたどり着いた。14時04分だった。

A3ほたか牧場〜A4かたしな高原スキー場での終焉

消耗が激しいので、少し長めに休む。豚汁におにぎりと豆腐をぶち込んでかっこんだ。バナナにオレンジに羊羹など、片っ端から食べる。

左膝の痛みは深刻で、歩くのも痛い。救護に相談しにゆくと、看護学校の学生達が連携プレーでテキパキと診断、処置してくれた。

エイドに入る少し前から、本来A5で摂る予定だったスペシャルサプリ、βアラニンとVESPA、それから芍薬甘草湯をすべて摂ると決めていた。早い段階で疲労・消耗を回復させた方が、後で後悔しない気がする。すべて手早く摂取し、回復に期待する。

30分ほどと長めに休息して、エイドを出発した。予定より遅れているので、ゆっくりでも走らねばと、エイドを出てひた走る。

4〜5km ほど走ると、二発目のスキー場が出てきたが、遠目に見ても洒落にならず、思わず笑いが込み上げてしまった。馬鹿げている!強烈な斜度のゲレンデを、カラフルなトレイルランナー達が一列になって登り続けていた。

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ゲレンデスタート地点より。笑うしかなかった

このゲレンデを見て、精神的に吹っ切れた。もー、限界だ。これ以上自分をかばうのは。こんなに抜かれ続けていて、制限時間の38時間以内にゴール出来るとも思えない。
攻めなければ終わりだ。守ったら終わり。元々守って完走できるレースじゃない。
転倒時の痛みも、左膝の痛みも、やや和らいでいる気もする。

意を決して、このゲレンデはギリギリまで自分を引っ張り上げて、攻めて登ることにする。吉と出るか凶と出るか。うまくいけば、挽回だ。失敗したら、もう前進できないかも。しかし、ジリジリと後退して関門アウトになるぐらいなら、限界ギリギリで攻めてみたい。

どうやったら疲労度は最小限に、早く登れるか探っていたら、小股で登るのではなく、大股で力強く登る方が進みが良かった。ただしやり過ぎると消費してしまう。脚を着く間に、空中で少しでも休ませる。集中、集中。どんどん抜いてゆく。

抜く度に、ギョッとされる。誰一人、こんな勢いで力強く登っていないから。
頂上まで、途方もなく長い登りを休まず登り続けた後は、同じような斜度の下りを元気に駆け下る。これにもギョッとされる。もうみんな、小さく攻めずに下っているので、大きく元気に下っているのは自分ぐらい。

とにかく脚を壊さないように、身体に痛みが響かないようにと集中しながら、ゲレンデを駆け下ってゆく。吹っ切れていて気持ちがいい。ゲレンデに入ってから、30人ぐらいは抜いたと思う。

これが正解だったんだ!もう一度このペースに戻して、34時間切りを目指すんだ。

ついに下り終えると、周囲のランナーは自販機に駆け込んだり、一休みしていたが、自分には休んでいる暇はないぜと第三のゲレンデ、かたしな高原スキー場へと向かった。ここは第一、第二のスキー場と比べてやや小さそうだ。

登り始めたときに、愕然とした。自分の脚は、もう終わってしまっていた。正解じゃない、作戦失敗。凶と出た。

力強さと同時に、ギリギリの強度で登り下りしていたつもりが、全くそうではなかったということだった。
大腿四頭筋はもう終わっていて、まるでほふく前進のように、小さなストライドでしか登れない。下りはもっと悲惨で、一歩ごとに激痛が走った。

残りの距離は?85kmはある。こんな終わった脚で、85kmも前進できるだろうか。このレース、標高差を見る限りは、まだすごい破壊力の山が待っているのに?

A4かたしな高原スキー場への到着は16時33分だった。ここは奥宮さんらFanTrailsが保守するエイド。このエイドは野戦病院化しつつあった。

腐っていても仕方ないので、補給し、椅子に座って準備する。まもなく日が暮れるうえに、雨雲が近づいてきていた。このレース、本当にしんどくなるのはここかららしい。
周囲では、リタイア者が目に付くようになってきた。明らかに迷っているランナーもいる。

自分はというと、雨が降る前に少しでもゴールへ近づきたい、それだけだった。
ヘッドライトを装着し、A4を後にした。

A4かたしな高原スキー場〜A5オグナほたかスキー場

しばらくすると山の中へ。ヘッドライトで足下を照らす。
もうほとんど、抜きつ抜かれつがなくなってきた。マイペースに進み、消耗が激しければ、ペースを更に落としたり、休むことにする。

今日四つ目にして最後のゲレンデ、オグナほたかスキー場の登りは、意外にも舗装路だった。
雨脚が強くなってきたので、レインを着込んで雨から身体とザックを守る。登り切れば、少し下ってA5オグナほたかスキー場エイド。デポバッグも取れる。

いつ終わるともしれない長い長い急坂を登り続けて、終わったと思ったら激下りが待っていた。
脚が終わっている状況から、よくここまで耐えてきたもんだと思いながら、一方でまだレースは半分。どこまで行けるのか甚だ疑問になってきた。

転倒時の打撲は、痛めたばかりのころから比べて気にならなくなっていたが、背中の痛みには時折呼吸を奪われた。膝の痛み、終わった脚の筋肉の痛みは、拷問のようだった。

21時16分、A5オグナほたかスキー場へ到着。17時間以上掛けて、ようやくレースの折り返し地点に立った。

後編へ続く!