Adidas Adizero Japan愛用者による細かすぎるJapan 5レビュー
Adidas Adizero Japan 5。このシューズほど「手を出すべきか否か」とランナーを悩ませ続けているシューズはないでしょう。かくいう私もその一人でした。
Adidas Adizeroシリーズには、今現在販売されているすべてのランニングシューズの中で最も信頼を寄せてきました。
普段のトレーニングでも最も出番の多いシューズです。カーボンプレートが入った厚底や、アウトソールをプラスチックのチップでコーティングしたシューズはシチュエーションを選びます。
一方、Japanなら大抵の場面は問題ない。これは私だけでなく、Japan愛用者の多くが感じているところでしょう。故に、愛情と敬意を持って「オールラウンドシューズ」という呼ばれ方をしています。この呼び方は、特徴がないという意味ではないのです。どんな場面でも頼れる "奇跡の万能シューズ" 。出会って以来、シューズに関する細かな悩み・ストレスは消え去り、トレーニングに集中できるようになりました。
しかし・・・Japan 5。このシューズが発表された時はもちろん、期待に胸躍る思いでしたが、値段がこなれてくるまで待ちながら情報収集していても、どこからも "信頼できる良い評判" が出てこない。公式オンラインショップに真っ先に投稿されたレビューでは、Japan愛用者の悲鳴が書かれていた時もありました。今はレビュー、消されていますね...。
発売から7ヶ月経った現在、公式オンラインショップやAmazon.co.jpには可も不可も無いレビューが...いや、どちらかといえばポジティブめのレビューを見かけますが、如何せんレビュアーの走力も分からないため、判断に迷います。
情報筋として最も信頼できるのがTwitterです。普段から交流している皆さんの走力や、愛用しているシューズの系統もおよそ把握しています。しかし、誰もJapan 5を買わないw
ということで、今回のレビューが参考になれば幸いです。
誰も買わないので俺が買いましたよっと
— nuichi🏃🏻♂️🚴疲労骨折中🦴 (@nuichi) 2020年7月24日
足入れの感じは最高👍 pic.twitter.com/0mWzvmRJqI
販売価格
2019年12月10日に発売開始、定価は15,400円です。今はようやく普通のシューズの価格帯に落ちてきており、2020年7月25日現在、公式サイトではセール 7,700円(税込)、Amazon.co.jpでは8,980円(税込)。私は近所のXEBIOで7,590円(税込)にて入手しました。
発売以降の価格変化をAmazon.co.jpで見てみると、3ヶ月後にガツンと10,000円前後に。そこから二ヶ月ほど経過して、今の価格帯に落ち着いていますね。
<Amazon.co.jpのJapan 5価格推移。Keepaより>
サイズ
XEBIOで足入れをして確認しました。靴下は抜かりなく、普段の練習時に履いている靴下 "injinji ミニクルー” にて。履いた感触としては、私はJapan 4と同じだなと感じました。店員さんも「前モデルと同じ良いと思いますよ」とのこと。
この点、ネットのレビュー記事では「0.5cm下げるべし」という声もあるので、サイズ感にセンシティブな方は必ずお店で足入れしましょう。
重さ
公式オンラインショップには27cmで224gとありますので、Japan 4とほぼ同じ、軽量シューズの部類と言えるでしょう。
私が買った27.5cmのwideをスケールに乗せて測ってみたところ、左足は約223g、右足が235gと大きく異なっていたので尻もちをつきそうになりました。
<スケール二機種で試し、何度も置き直して確認した>
シューズの重さはよく量るのですが、左右でこんなに違うシューズもあるんですね。これからは必ず、左右両方とも量ることにします。
従来Japanとの比較
ズバリ分かりやすく、従来のJapanと比べたときの大きな違いは次の5点です。主観的な影響度順に並べています。
- ミッドソール部を「Boost x [新素材]LIGHTSTRIKE」に変更
- アッパー素材を「セラーメッシュアッパー」に変更
- ドロップの変更
- アウトソールのレイアウト変更
- シュータンは完全に刷新
細かいですが無視できない変更点としても、
- シューホール周辺のストレッチ防止コーティング
- シューレース(靴紐)の素材変更
さて、ここまで変えたとなると、逆に変えなかったところはヒールカップとラストぐらい?とするとこのシューズはJapanと言えるのか?
自分の人生にとって大切な一足が「テセウスの船」と化してしまったような気がしてやや狼狽しますが、気を取り直して、写真とともに順に詳しく見てゆきましょう。
1. ミッドソール部を「Boost x [新素材]LIGHTSTRIKE」に変更
ミッドソールは刷新されました。初採用されたLIGHTSTRIKE(ライトストライク)とは何かというと、『一般的な衝撃吸収素材であるEVAに比べて40%軽量で、アディダスの「BOUNCEフォーム」よりも高い反発力を持つ』とのこと。
あ、あれ?Adizero Sub2 に採用されたBoost Lightは採用されなかったのか...と意外に感じました。BOUNCEフォームについてほとんど注意を払ってこなかったのですが、改めて調べてみると、ベコジやRCで使われていたあれのことですね。
Japan 4と比較すると一目で分かるのですが、この部分の違いです。
<側面からのミッドソール比較>
なおJapan 5のソールを裏から見てみると、前足部にまったくBoostが使われていないわけではなく、薄くBoostも入っています。
<Japan 5のアウトソール。Boostが存在することは視認できる>
ただ、これまでのJapanのミッドソールの主役がBoostだったのに対し、Japan5からは、
- 前足部:ほぼLIGHTSTRIKE ※Boostは極薄
- ヒール部:BoostとLIGHTSTRIKEのハーフアンドハーフ
と、思い切った変更を加えています。
Japan 5を愛用しているランナーの走力やトレーニングの内容を考えると、このシューズはフォアミッドやミッドフットで使われる場面が多いと思います。
そこに、前足部をBoostではなく「ほぼLIGHTSTRIKE」とした点、かなり思い切った決断だなと感じます。この新しいミッドソール素材とデザインに、従来のJapan愛用ランナーを納得させられるどんなファクトがあったのかなと想像しています。
2. アッパー素材を「セラーメッシュアッパー」に変更
アッパーも刷新されました。前作はエアメッシュアッパー、いわばオーソドックスなランシューのアッパー素材でしたが、今回はハイテクな感じです。軽量化や通気性という点では好印象です。インソールが透けて見えますね。
<透け透けのアッパー>
雨に濡れても水分を吸わず重くならなさそうですし、洗った後の乾きも早そうです。
<前方からのアッパー比較。名残はなし>
3. ドロップの変更
ドロップは変更されていますが、この点は解体してみないと正確な事実が分かりません...というのも、カタログスペックでは、Japan 5が "DROP 9.5 mm" に対してJapan 4が "DROP10 mm" となっています。
しかし、月間陸上競技のWebメディアでの記事には「前作よりもドロップを1~2mmアップさせたマイクロフィットラストを採用」とあります。
つまり真逆ですね。ここは走ってみて確認しましょう。
3. アウトソールのレイアウト変更
アウトソールのコンチネンタルラバーのレイアウトは、3から4の際にはほぼ変更されませんでしたが、今回は刷新されています。
<上はJapan4、下はJapan5>
1100kmほど走った私の汚れたJapan 4との比較で申し訳ありません...。しかし見比べれば、レイアウトの類似点は無いと分かるでしょう。
凹凸の盛り上がり部分は、若干ですが従来のJapanよりも高くなっているように見えました。
<凸の盛り上がりが気持ち高めのような>
5. シュータンの変更
シュータンも刷新されました。Nikeには20年以上前から、タンとインナースリーブを一体化させたシューズがありますが、あの手のデザインです。
<シュータンの素材は薄手でストレッチが効いている>
シュータンの厚みが減って薄くなり、足に吸い付くようなフィット感。足とシューズに良い一体感が生まれています。
その他の変更点:シューレースとシューホール
シューレース(靴紐)は、どこでも買える綿100%の紐です。Bostonではこのシューレースが採用されていますね。Japan 4までは、合成素材のシューレースでした。シューレースは摩擦によって解けづらいなら何でも良いのですが、綿100%の方が解けづらいというデータがあったのかな。合成素材のシューレースでもあっさりほどける時はあるので、どちらが優れているかはデータがないとなんとも分からず、です。
シューホール周辺のコーティングが最近流行っているのでしょうか。Nike、SALOMON、etc... そしてついにJapan 5にまで。これについて言及しているランナーにはほぼ出会わないのですが、私は長らく頭を抱えています...インプレッションの締めで触れます。
最後にヒールカップ。これは従来と同じフィーリングでした。
<厚みを入念にチェック。同じです>
さて長くなりましたが、インプレッションへ!
インプレッション
EペースジョグからMペース、Tペース、ついでにRペース走と坂道走までをくまなく試してきました。天候は曇り、ロードはほぼドライで、身体はちょっと重めの出だしです。
先にお伝えしておくと、私の戦闘力はハーフマラソン1:23'、フル3:01'です。
以降、先入観なく、フラットにシューズからのフィーリングを捉えられるよう、心がけました。
Eペース(5'00"/km前後)
道路に立ってみると、アウトソールのコンチネンタルラバーは強力で、地面をしっかりグリップしています。これなら安心してスピードを上げそうだな、と感じました。
<汚い脚を、すみません>
早速ジョグ開始。すると、おっとやっぱり違うな!とすぐに感じます。
まずはドロップの違いです。着地がわずかに前傾になるなと感じます。カタログスペックではドロップが減っていましたが、実際には月間陸上競技の記事通り、ドロップ差が増えているのではないかな。
それと同時に、ミッドソールの違いも分かります。私のジョグはミッドフットで、ほぼ中足部から着地後、足裏全体に体重が掛かる着地ですが、反発の印象はヒール部は強め(買ったばかりのJapanという感じ)、前足部からはほぼないという感じです。ヒール部でやや強めに押される感じがします。
新アッパーの「セラーメッシュアッパー」には、しばらく違和感がありました。厚手の網戸に足を突っ込んで走っているような...この感覚ははじめてで、妙にアッパーがへごへごする。気にせずに走るしかないなと。
総じてジョグでは、割り切って許容できる範囲です。
Mペース(4'30"〜4'40"/km)
夏はスピードが上がらない...本来のMペースよりも遅いのですが、心拍でペースを管理しながら走っています。
MペースはEペースジョグと比べると、接地時間が短くリズミカルになります。同時に加重のバランスは、私の場合はミッドフットからややフォアミッドへ変化します。
すると、ジョグの感じからまぁそうかなと思っていましたが、前足部をLIGHTSTRIKEに寄せたJapan 5では、Japan 4以前にあった地面から得られるパワー・反発が少なく「ラクに気持ちよくスピードを上げて維持」できる感覚がありません。
Mペースでは「いかにしてリラックスしながらスピードを上げられるか」が肝なのに、これは結構しんどいなと感じました。
Rペース(3'00〜3'10/km)
順序からはTペースに移行すべきところではありますが、お気に入りのFKT区間に差し掛かったため、630mのRペースを試します。
快調走より少し速いスピード域ですが、距離はそこそこ長いこの区間、半分過ぎた辺りからはフォームを崩さず・呼吸を乱さずにどこまで粘れるか、という頑張りも必要です。私のR走はフォアミッド〜フォアフットです。
まず、コンチネンタルラバーのアウトソールには助けられました。ブレずにしっかりと地面をグリップしていて、かといって地面にまとわりつく感じもなく、安心して身体を預けられます。
しかし、Mペース以上に前足部を使う走りのため、やはりLIGHTSTRIKEからは乗り込んだ後の地面からの反発は得られず、その点で若干ながら接地時間も長く感じます。これはRCを履いてスピード練習している時の感覚と似ているな、と。
その分、お尻やハムストリングの出力と負担があがっているのを感じます。この点では良い「トレーニング用シューズ」とも言えそうです。
坂道走
いつものランニングコースには150m程の短い坂があり、ここは全力一本勝負、と決めているので、駆け上がってゆきます。
しかし面食らったのが、やはりドロップ差が大きくなったからか、普段はヒール部の接地を感じないのに、しっかりと感じとってしまうのが気になります。しかもヒール部はBoostが多いので無駄に跳ね返ってくる。普段と比べてリズムの悪い坂道走になりました。
Tペース(4'05-4'10)
少しEペースで徘徊した後、最後にTペースを確認。
坂道走と感触が似ていて、Mペース以上のヒール部の反応の速さ、一方で前足部のおとなしさによって、どうも疲れるTペース走になりました。実際、練習後半でちょっと疲れてもいたので、次回はEペース後にTペース3km x 2やTペース5kmも試してみたいと思います。
走り終えて
実はR走のしばらく後から、左脚だけインソールを抜かなければなりませんでした。シューホール周辺の、ストレッチを殺すためのコーティングがされているシューズでは、私は左足親指の第二関節が十中八九、靴擦れになるのです。
<足の親指の第二関節の靴擦れ。左足のみならず初の右足も💧>
一度靴擦れすると三日は走れなくなるので、個人的にはなかなか辛い。若干厚みのある靴下をはいているのは事実なので、次回以降は薄手の靴下や、裸足でも試してみたいと思います。
この原因となるシューホール周辺のコーティングを私は「ストレッチキラー」と勝手に呼んでいますが、これ本当に必要ですかね?
<ストレッチキラーが俺を苦しめる>
ストレッチってありすぎてももちろんまずいですが、全くさせないというのもおかしいだろうと。
インプレッションまとめ
Positive👌
- 従来のJapanと同じ足入れの感覚と軽量感。シュータン兼インナースリーブによって前よりも良いぐらい。かかとも良いホールド
- 新レイアウトのアウトソールはしっかりとしたグリップで安心
Negagive🤔
- ミッドソールとドロップの変更により、従来のJapanが持っていた「スピードを上げれば、それに応じてレスポンスも上がるフィーリング」は消えた
- シューホール周辺のコーティングと相性が悪い人は、靴擦れに注意
Neutral😑
- Tペース以上のスピードで、ハムストリングと臀部の筋肉の強化には効果的
- アッパー素材の変更に違和感があるが、走っていれば忘れる
自分はどんな場面で使う?
- 雨の日のジョグ
どんな人に推薦する?
- 初級者向けのクッショニングモデルをやめて軽快に走りたい初級〜中級ランナー
- ハムストリングや臀部の筋肉の強化に腐心する中級〜上級ランナー
- かつてのJapan支持者は対象外
Japan 5からは "奇跡の万能シューズ" ではなくなり、鍛えるためのトレーニングシューズとしての位置づけに変わった、というのが私の結論です。
クセがなくフィット感が良い点から、怪我はしづらそうに思いますので、その点は利点のひとつでしょう。
最後に、Adidasに思うこと
いま、Adidasに対して思うこと。これはもう書き始めると長文になりますね。私も(IT系ではありますが)製品企画・開発・マーケティングの端くれです。また別の機会があれば書き殴りたいと思いますが、もしAdizeroシリーズの企画・監修チームやマーケティングチームが「Nikeその他の厚底にお株を奪われて、あの頃のように使ってもらえない・売れないなぁ」と思っているなら、勘違いだと私は思います。
Nikeの攻勢は激しいですが、優れたシューズはその中の一部です。にも関わらずAdizeroは迷走していて、Japanでは3の高い完成度を4でやや不安にさせ、5で破壊してしまった。私の周りには、仕方が無いので、ボロボロの3や4を使い続けたり、5ではなく4を買っているランナーもいます思った以上に多い!
今一度「誰に・どんなシチュエーションにフォーカスするのか」を再定義し、信頼できるファクト/データを元に、ターゲットランナーの協力を得て(私、そしてSNSで繋がっているランナー仲間達が喜んで協力するでしょう!)、沢山のランナーに支持され続けるシューズに回帰してもらいたいところです。