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ハセツネCUP2018完走のために伝えたい、大事な三つのこと

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ハセツネCUP2018へエントリー成功した皆様、おめでとうございます!

レースまでは4ヶ月。時間はまだ十分。完走を目指して、トレーニングとギア準備を油断なく進めて頂きたい。

私は昨年のハセツネ2017に出場し、16時間以上も掛かったが、なんとか完走。
酷暑且つ湿度の高い日中、夕方からは霧が出て、夜は小雨という天候コンディション。全ての出走者がハセツネの厳しさを思い知った大会だったと思う。

ハセツネ完走のためのアドバイスはいくつもある。水分や食料の戦略、関門区間ごとのレース運び、シューズやレインウェアやバックパック...

それらは一旦、他の完走者の方の情報を探して頂くこととして、私からは昨年の経験を通じて、次の三つに絞ってお伝えしたい。

  1. ヘッドライト選びは慎重に
  2. トレッキングポールから力をもらおう
  3. 試走必須

本当に本当に大事なこの三点。私の失敗・成功体験が、少しでも完走の助力になれば幸いである。

1. ヘッドライト選びは慎重に

私のハセツネ最大の失敗は、ヘッドライトだった。

レース前、私はまだヘッドライトを持っていなかった。リサーチの後、購入したのは Black Diamond の SPOT。これを二つ購入した。一つは頭に、一つは腰に付けるため。

他のブランドでは、LEDLENSER、PETZL、GENTOS あたりも候補だったが、次の理由から、当時は SPOT で迷わなかった。

  • Run boys! Run girls! で取り扱っていた。この店が扱っているなら信頼できるギアだろうと考えた
  • 300ルーメン。すごい数値。かなり明るそう
  • Amazonのレビューでも高評価
  • 比較的リーズナブル。5,000円程度で購入できた
    • 腰のライトと言えば UltraSpire の Lumen 600 がフラッグシップ。トップランナーも採用している。しかし20,000円以上するし...

SPOT 入手後、近所の玉川上水沿いのプチトレイルで夜間走を試してみたが、これは十二分な明るさだな!と感じたものだ。

しかしハセツネ当日。想定外に悲惨な結果となった。

第一関門の浅間峠を過ぎて SPOT を灯すも、あれ?意外と暗いな...と不安がよぎる。

下界の平坦なプチトレイルでは十分に感じた明るさも、山だと違った。
下界では、暗いとはいえ電灯や家からこぼれる灯りがある。山のような、真の暗闇ではない。また、山の複雑な地形も影響する。

そこへ濃霧が立ち込みはじめ、一気に視界が遮られる。
更にその後、シトシトと雨が降り始める...これが決定的にまずかった。

SPOT は霧や小雨に全く太刀打ちできず、視界はわずかな範囲をおぼろげに照らすだけ。自身の足先が、まるで見えない。

なんという恐怖!必死の集中力で、少しでも視界の確保を試みるが、見えない。何も見えない。
この状況下で走るなんて全く無理で、一歩を踏み出すのにも勇気が必要だった。危険だったし、本当に疲れ果てた。

その光景を見よ!(この映像はピントがボケているのではなく、私の目を通じて見えていた光景とほぼ同じ)


ハセツネCUP2017 霧の夜間走

途中、第二関門の月夜見の駐車場エイドへと向かうロードで、ライト無灯火のような私とは対照的に、あまりにも明るいヘッドライトで走るランナーがいた。雨をものともせず、煌々と前方を広く照らしている。
思わず近寄って「そのライト、すごいですね」と話し掛けたところ、「でしょう。レッドレンザーのライト、最強ですよ」

それがこれ、 LEDLENSER MH10

ハセツネで苦々しい思いをした私はその後、2018年4月の奥三河パワートレイルを前に入手。
なおアウトドア系のお店のヘッドライトコーナーでは、どの店でも面出しでプッシュされていて、自分は売り場のどこを見ていたんだ...と。

三河パワートレイルのレース後半では、どんどん関門が厳しくなってゆくと同時に、夜間走へ突入したが、暗闇に不安なく、走り続けることが出来た。制限時間前ギリギリで完走出来たのは、間違いなくこのライトのおかげ。
ゴールまであと3kmほどの地点で、薄暗いヘッドライトで慎重に走っている人を抜かしたが、彼は制限時間内のゴールは難しかっただろう。

その後、彩の国100kmでも十分に働いてくれた。このレースでは更なる快適さを求めて、ハンドライトの LEDLENSER P7R も入手し持ち込んだ。

ヘッドライトで前方を、ハンドライトで足下を照らし、全く隙がなくなった。
ただハンドライト P7R については、知らずに最強モードで使い続けてしまったため、案外早くバッテリーが切れてしまい、途中からヘッドライト MH10 だけにしたのだが、それでも特に困らなかった。

このヘッドライトがハセツネの時にあったら!恐怖も無く前進でき、あと2〜3時間は早かっただろう自信がある。

MH10もP7Rも、充電電池を採用している点もいい。レース前、"ヘッドライトには必ず未使用の電池を入れること" とはいうが、とはいえちょっと使っただけの電池を抜いて毎回新品を入れるのはコスパが悪い。
比べて、MH10はmini-USBケーブルを刺すだけのお手軽充電。P7Rには、マグネット式の使い勝手のよい充電システムが採用されている。

どうか私のように、レースでは、あるいは天候次第では使えないレベルのヘッドライトではなく、安心して走行できるヘッドライトを手に入れて欲しい。

※なおフォローしておくと、Black Diamond SPOT は、ロードのナイトランにおいては今も活躍してもらっている。

<参考>

2. トレッキングポールから力をもらおう

ハセツネ前、トレッキングポールを手に入れ、使うべきかは悩んでいた。
そんな時、ハセツネの情報収集中に読んだ松井さんのブログ記事で、ポールについて真剣に考えはじめる。

mountain-ma.com

上記の記事からの引用。

まずはストック(ポール)について。
これ、必須です。
かなり走力がないと、ストックなしでは三頭山も御前山も戦えません(笑)
ストックは第1関門の浅間峠後から使用可能なのですが、本当にこれに支えてもらいました。
なんなら、御前山なんて半分以上寝ながら進んでいたので(笑)
このストックなしでは無理だったと思います。

また、有用なトレイルランの教科書のひとつ「ウルトラ&トレイルランニング コンプリートガイド」の第七章には、以下のようにある。

ウルトラ&トレイルランニング コンプリートガイド

ウルトラ&トレイルランニング コンプリートガイド

"Lean on Me":トレッキングポールから力をもらおう

ヨーロッパのトレイルランナーが、マウンテンランニングにトレッキングポールを取り入れるようになったのは、かなり昔のことだ。米国ではかなり遅れたが、現在、使われることが多くなっている。トレッキングポールがいちばん役に立つのは、上りである。山にさしかかったランナーが、背中を丸めて両手を膝につき、腕で前に進もうとする。そんな姿はすぐに頭に浮かぶだろう。だったら、前かがみにならずにポールをつき、上半身の力をうまく利用している姿も想像してみよう。なかには、ポールを使うと、上りでのピッチがより速く、効率的になると言う人もいるのだ。

クリッシー・モールは、2009年のUTMBを制した選手だ。この大会は、アルプスを舞台に行われる103マイル(165km)のレースだが、モールはここで初めてトレッキングポールを使った。その効果を問われたモールは、こう答えた。「大あり。かなり働いてもらった。特に後半。ラスト30マイル(48km)に大きな上りが3つあったけれど、まさに引っ張ってもらったわ」

比較的長いレースでは、上りが速くなるとタイムが縮むだけでなく、レース後半まで力を残しておける。ウルトラマラソンのベテラン、ギャレット・グロービンズは、レッドヴィル100マイルを走ったあと、「トレッキングポールは、一歩一歩、ほんの少しずつ、私の脚を助けてくれた。このほんの少しの支えが、100マイル分、積み重なっていったんだ」と語っている。

こういった情報も参考に、ハセツネに挑むにあたって、トレッキングポールの力を借りようと決めた。
イメージ、第一関門の浅間峠を出発するとき、第二形態にフォルムチェンジ、武器装填完了!みたいな。

私が選択したのは、Mountain King - Trail Blaze (アルミ) だ。
トレイルランニング向けのトレッキングポールの比較については、前回まとめた記事も参考にして頂きたい。

longmayyourun.hatenablog.jp

私は事前に、白馬国際トレイルレース50kmで実践投入。このレースでは、トレッキングポールをフル活用して力強く走ることができて、7時間12分。自分的には快走だ。

ポール活用の手応えを得た私は、ハセツネでもフル活用。まさに一歩ずつ、脚を助けてもらった。

さてハセツネで使う場面だが、まずはポール解禁となる第一関門浅間峠から大ダワまで。

大ダワから大岳山の間にはガレた下りが続くため、収納しておこう。手で持って降りると邪魔になるだけでなく、周囲のランナーにとっても危ない。

終盤の日の出山以降も使える場所。もう一度取り出して力を借りるのもいいだろう。

3. 試走必須

よほど完走に自信のある人以外は、必ず試走しよう。ハセツネクラスのコースでは、試走の有無は完走の明暗を分ける。
試走していさえすれば、精神的な安心感が全く違う。
知らないコースを、「いつこの登りが終わるのだ」と不安に思い続けて進行するのと、「この道は知っている、前に走り切れた」と自信を持って進行するのでは大違いだ。

ハセツネの試走は、前半と後半を分けて行おう。

前半は、武蔵五日市駅からスタート。三頭山直前で三頭大滝側へ降りて、都民の森で終了するのがおすすめ。ゴール地点の都民の森では、水分や軽食確保が可。そこからバスで武蔵五日市駅へと戻ることができる。

後半は逆に、武蔵五日市駅から都民の森へバスで移動。都民の森から走りはじめて、三頭大滝の側から三頭山直前のルートへ戻り、あとはゴール、つまり武蔵五日市駅まで走る。

アレンジとしては、前半は月夜見駐車場まで、後半も月夜見駐車場から、というコース取りもあるようだ。

なお、モシコムなどで試走会を見つけることが出来る。こういった会に参加するのはおすすめ。攻略の仕方を丁寧に教えてもらえるだろう。

個人的には、無理にハセツネコースで夜間走をする必要はなく、両方日中でいい。夜間走は、未経験であればそれはそれで別途軽く試しておこう。

最後に

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多くのハセツネ初チャレンジャーは、はじめて70kmという長距離、そして夜間に及ぶレースを経験するのではないかと思う。

ハセツネは制限時間24時間と、時間は十分にあるため、水切れや怪我がなければ、多くの人がゴールできると言われる。近年の完走率も75%−85%程度と、高めではある。

しかしながら、500人程度はリタイアするわけで。キツい局面は少なくない。レース中、リタイアを申請するランナーに遭遇すると、ぐらりと心が揺れる。

まず、万が一生死に関わるような身体の状態になったら(水切れしそうなど)、無理する必要はない。意地を張らず、今年は諦めよう。 来年、十分に準備して再度挑めばいいのだ。死んではいけない(ハセツネでは過去、死者も出ている)。

ただしその手前、心が折れそうになった時は...踏ん張るしかない。 そんな時の私のおすすめの呪文をどうぞ。

「ゴールしたら、ビールを呑んで、今日はもう何もしない」

喉の渇き、水分枯渇と闘うハセツネでは、やけに力がわいてくるフレーズだ。 辛いときに、どうか唱えてみて欲しい。