Long may you run

- 末永く走り続けられますように -

The 4100D マウンテントレイル in 野沢温泉2022完走!

2022年7月17日(日)に長野県の野沢温泉村で開催された「The 4100D マウンテントレイル in 野沢温泉」に初参加し、完走してきました。

トレイルレース参戦はコロナ禍突入以来の 2.5 年ぶり。ずいぶん経ちました。その間、先天性の心臓病も発覚したりして、もう山は走らない方が良いかもなとも思ったのですが、もともと人生に悔いを残して死にたくはない死生観です。むしろ体調変化に注意深くなったことをポジティブに捉え、これまで通り、目標を追うことにしました。ということで、待ちに待った久しぶりのトレイルレースです。

これまで 60〜80km 級、更には 100km 超や 140km などのロングディスタンスレースも完走してきていた自分なら、65km のレースはおそらく大きな懸念はなくクリアできるはず...と正直タカをくくってしまっていたところがあったのですが、甘かったです。道中、打ちのめされまくりました(笑)。

一方で野沢温泉村という街ぐるみでのトレイルランの応援・声援には、驚き、感激しました。肩身の狭い思いでロードやトレイルの隅っこを走るんじゃなくて、晴れ晴れとした気持ちで道の真ん中を走らせてもらいました。このレースの主催者さんは地元との関係値をしっかりと築いています。

2023 年以降の大会に参加される方は、野沢温泉村の老若男女からの喝采を浴びて走る楽しさに思いをはせつつ、一方であっさり DNF にならないよう、この記事も参考にしつつしっかり備えていただければと思います。

前日受付

前日受付会場スパリーナ内の充実ブース群

このレース、当日受付があるのはありがたいのですが、夜中の車での長時間移動は辛いので前日入りしました。事前に見ていた Google Maps では 4 時間弱の到着と見込んでいたのですが、いざ当日出発していみると 6 時間掛かる予想になっていて焦りました。雨と三連休初日ということが重なっていたからか、なかなか車が前に進まず、これじゃ受付終わっちゃう(※17時まで)。経路を工夫してぎり受付時間に間に合いましたが、もっと余裕を見て出発すべきでした。

私は宿を抑えるのがすごく苦手で、レース一週間前という開催間際にようやっと重い腰を上げて宿を抑えましたが、これをやると泊まるところは全く見つからないので(笑)、レース参加を決めたら速やかに宿を予約しましょう。

行ってきて街の構造を把握した身からすると、宿の決め方には次の二つの方向性があると思います。

  • A スタート・ゴール会場のオリンピックスポーツパークの近さを優先する
  • B 温泉街を楽しむことを優先する

ざっくりA/Bのエリア分けイメージ

この A/B ですが、両立は難しいところです。以下、メリット・デメリットを挙げておきます。

A の場合

  • メイン会場・前日受付会場へ徒歩アクセス可能
  • 温泉街は遠く、前日やレース翌日に気軽に遊びに行きづらい。必然、食事屋も少ないし買い出しも車移動となる
  • 野沢温泉村名物の外湯に行ける数も限られる
  • 車の出し入れはしやすい

B の場合

  • 温泉街を堪能できる
  • 駐車できる宿は限られる。駐車場が宿から離れていることも
  • メイン会場へは車で向かう。ただし大会指定の第三駐車場はメイン会場からもそこそこ遠い
  • 前日受付会場は、施設利用者以外は車乗り入れ禁止。頑張って歩く必要あり

私は A を選びましたが、ご自身の趣向で選びましょう。

私が泊まった宿は素泊まり的な宿で、食事もなかったので、前日の夕食は駐車場のある洋食屋さんに駆け込んでしっかり食べました。明日レースだと思うだけでなぜかやたら腹が減るんですよね。脳ってすごい。

洋食屋グリーンピースのL.O.は18時です

街中にデイリーヤマザキがあるようなので車で行ってみましたが、大失敗でした...。到底車は停められず、街の細い坂と沢山の歩行者の間を車で走るのはひやひやでした。 食料品は野沢温泉村に到着する前に調達しましょう。途中の飯山エリアにはセブンイレブンとローソンもあります。

泊まった宿にシャワー室はあったのですが、お化けが出そうな薄暗い雰囲気で気が乗らず。とはいえ外湯ではリラックスできなさそうな印象もあったので、結局、前日受付会場のスパリーナの内湯に入りました。浴槽がひとつと小さなサウナ室がひとつあるだけで、都会のスーパー温泉に行き慣れている自分からすると物足りなさはいなめませんでしたが、贅沢は言えないですね。体と心を休めることはできました。

レース当日〜スタート前

AM5:00 に起床し、ゆっくり支度して AM5:45 頃に宿を出発。ベースキャンプ用の荷物が多く重かったので、負担にならないようゆっくりと歩きつつ AM6:00 には会場入りしました。

スタートが晴れていると嬉しい

この時間ならトイレもほとんど人が並んでおらず、速やかにトイレチェックイン。仮設トイレは 6 つありました。スタート直前に「トイレかなり行列」という声が聞こえてきたので、トイレは早めにすませておきましょう。

前日会場同様、この当日会場でも物販が充実しています。補給食を準備できなかった人もギアを忘れた人も、大抵なんでも会場で調達できます。

早朝から何でも揃う

共用テントサイトには想像以上の沢山のテントが張られていて、そんなに過密でもなさそうです。ただ雨が降ると、結構悲しいことになると思います。自分の荷物を入れる大きなビニール袋などは用意した方がよいでしょう。

共用テントサイトの様子

自分はベースキャンプを張ります。先日たまたまゲットしていた家族用のサンシェードの出番です。組み立て式のアウトドア椅子、クーラーバッグとシンプルなベースキャンプですが、必要十分かなと。サンシェードが風で飛んでいかないように、ペグで固定します。

この小さなベースキャンプに命助けてもらうことになる

なおテントサイトは十分な広さです。私は少し離れたところにテントを張りましたが、やはり会場中心部に近いエリアの方が、各セクションから戻ってきた時に負担が減るのでお勧めです。

ゴールゲートと物販ブースに近いこのエリアがおすすめ

以前から Twitter で交流させてもらっているヒロキ (@ngsk69) / Twitterさんが近くにいると気づき、声を掛けあって合流!想像していたとおり、エナジーみなぎるナイスガイでした。

今日めちゃくちゃ晴れてますねと言ったら、ヒロキさんは令和の晴れ男を自負しているそうです。この男はこの日この後、数日前からの雷雨予報も退けるほどのパワーを発揮しましたw

ヒロキさんの左腕には最近ゲットされた COROS Vertix 2 が。まぶしい!実は自分も買うか悩んだのですが、愛用中の COROS PACE 2 のままで来ました。まぁこれはこれで、特に不自由はなかったです。

ヒロキさんは 10 時間切り目指して第二ウェーブに並ぶとのこと。 自分は天候を鑑みて(※この時点では荒天を想定してですが) 12 時間切りを目標にしていたので、お互い健闘を祈って一度お別れします。

気づくと、もう結構沢山の人がスタートエリアに並んでいたため、焦って自分も並び始めますが、ここで二つミスります。

  1. 忘れ物をしていました。。後で街を走った後、ひとり会場へ立ち寄るハメになり4分ロス。スタートに並ぶ前には指さし荷物確認必須!
  2. 適当にウェーブに並んでしまい、この辺が第三ウェーブ(12時間ゴール予定組)かと思っていたら、第四ウェーブ(14時間ゴール予定組)でした。。周りに聞いたり場所を確認しながら、しっかりとお目当てのウェーブに入り込むべきでした

和太鼓がスタートを盛り上げる!

激しい太鼓生演奏がはじまり、歓声と拍手に包まれて AM7:00、大会スタート!第一ウェーブ集団が力強く飛び出してゆきました。 そこから6分後、第四ウェーブもスタートしました。この程度のロスタイムなら、制限時間や関門時間については影響はないなと推察しながら駆け出します。

第一セクション - 23km、毛無山

まずは緑の第一セクションから

さてまずは、オリンピックスポーツパークを出て温泉街へと向かいます。すでにやや暑い。ロードを登り続ける中、ここで急いでもなんの意味もないと分かってはいつつも、雨のトレイルパートでの渋滞は避けたいなという思いと、予定の第三ウェーブでスタートできなかった点から、少しスピードを上げながら沢山のランナーを巻いてゆきます。

温泉街エリアに到達するとすぐに、事前に写真では見ていた麻釜のそばを駆け抜けてゆきます。そのあたりからは、街ぐるみの大声援です。まだ朝早い時間なのに、大勢の街の人達や、ミドルやショートに出るランナー達がエールで送ってくれて感激しました。この街ではトレイルランナーは嫌われていない!自分はできる限りエールに反応して、手を振り返したり、行ってきまーす!と元気に応答しながら走ります。

このあたりで、うわー、手袋忘れた。。と気づき、ちょっと悩みつつも、オリンピックスポーツパーク付近をもう一度通るはずだからピックアップしようと決めます。

と思っていた矢先に、汗だくのヒロキさんが「やっと追いついた!」と出現。え!もっと前走ってましたよね?!と聞いたところ、第二ウェーブは開始早々集団ロストしたそうです...それ辛い!😭しかしさすがヒロキさん、なんら凹まず、どんどん先に進んでいって、すぐに見えなくなりました。

温泉街を練り走ってからメイン会場に一度戻る。晴天!

自分はひとり会場に立ち寄って忘れ物を回収し(ここでマットを踏むと優勝しかねないので、歩く場所を慎重に選びつつ)、なんのために最初の坂を頑張ったんだと嘆きながら、ルートに戻って林道へ突入してゆきます。この林道は走ろうと思えば走れる林道で、誰もが各々のペースで進んでいました。

林道、そしてトレイルへ

スタートから 10km ほどの地点で林道セクションも終わり、トレイルに入ってゆきますが、ここまででランナー達、自然に走力別に並び直しているので、トレイルでも前が遅いとか後ろからプッシュされるということがなく、自分のペースで前進できました。

しかし気温が高い!どんどん暑くなってゆきます。このあたりは豊富な水源があり、ろ過器も不要なんじゃないかというきれいな沢水が。水を減らしてしまった人は、このあたりで水を汲むことができるでしょう。

沢の水量がすごい

第一セクションの最初の踏破地点は毛無山です。この名前はなんだか男性にとっては不吉な名前の山だな、どこの誰がこんな名を...と訝しみながら進みます。

途中、ロープ登りがありますが、みなさんまだまだですね。自分は得意です😎

ロープは、身体を預けてしまった方がよいです。消防士になった気持ちで、垂直な壁を登る訓練だと思って構えた方がよいでしょう。足は山肌側に踏ん張り、腕と脚を交互に出しながら、しっかり手足で身体を持ち上げてゆくと、するする登れます。

スタートから 2.5 時間経過後、距離は 14km 程の地点に毛無山山頂がありました。山頂は拍子抜けするぐらい何もなかったですw

標高1645m毛無山山頂、特にめぼしいものはないw

大抵のトレイルレースでは登りきってから頂上でひと休みしている人は多い印象ですが、誰ひとり休まず進んでゆきます。みんな攻めるなー。

みんな休まず攻める!

そこから 10 分ほどで最初のエイドへ。すでに日差しはきつく、1L の水分はカラに近い状態になっていたので安堵しました。

エイドは、運営の事前案内では「たいしたものないから各自しっかり持って来なせい」というニュアンスだったと記憶していたのですが、実際のところはエイドでの食べ物は充実していました。ドリンクは水だけでしたが、冷たいし、水切れの心配も皆無でした。

頑張ってくれてるエイドに感謝

手早く水を 1L フルチャージして、トマト、オレンジ、塩漬けきゅうりなど頂きつつ、ささっと先へ進みます。

ここまでは、鎖場やロープ登りに備えてポールを畳んでいたのですが、下りで活躍しそうなので出しました。出してすぐにショックを受けました… めちゃくちゃ楽!これ最初の林道突入直後にすぐポールを組み立てるべきだったな、と後悔。

自分のポールワークはというと、さすがにいくつもの大会で駆使してきたこともあり、登りでも下りでもそこそこ活用できているんじゃないかなと思います。下りは、スキーをやっている感覚です。攻めて走り下る時に、脚の筋疲労を軽減しながら加速できます。さながら4本足の獣になったようなイメージです。アイアムカモシカ

あとは会場まで、浮き石ゾーンや風ごうろゾーンを下るだけなのかと思っていたら、いやらしい登りがまた待っています。

登りもヤバけりゃ

ただ、登りもポールで負担軽減しながら前進します。登り終えた後は、スキー場のゲレンデくだり。脚が一番壊れるやつですw

下りもヤバい

景色は最高!気をつけないと太ももの筋肉に大ダメージを背負うので、なるべくポールでスピードを殺しながら下ります。

スタートから 4時間 ほどでメイン会場帰還!余裕度ありで前進していた割にはおよそ目標時間どおり。休憩は 15 分だけと決めていたので、手早くベースキャンプで休憩、補給、着替えを済ませます。

昨日買ったコンビニのおにぎりよりも、どう見てもエイドのおばちゃんが鬼気迫る顔で握りまくっている高菜のおにぎりの方が美味しそうなので、ひとつ頂きました。予想通り、お金払いたい美味しさ!😋

令和の晴れ男のせいで(笑)暑さは更に増すばかり。Tシャツをノースリーブに着替えます。汗で濡れたウェアを着替えると多少さっぱりします。

第二セクションは 13km と短いため、使っていなかった補給食を入れ替えずにそのまま残し、水分だけはスポドリ 500ml と水 500ml 満タンにしてスタートしました。

第二セクション - 13km、小菅神社

左下、紺色の第二セクションへ

しかし思えばこの時に、しっかりとエイドで水をたっぷり飲んでおくべきでした。第二セクションはじまって早々、暑いぞ、のどが渇くなと感じて、詰めたばかりの水分を結構飲んでしまったので。それに気づいたのは、第二セクションの北竜湖到着の直前でした。

もう結構水飲んじゃってるけど、まだ半分も来てないぞ。ここは第一セクションみたいに水場あるのかな。なかったらやばいかも。いらんと思って、ろ過器をザックから出したのまずったな。時間は昼 12 時、この後もっと暑くなりそう。など、焦りが高まります。

北竜湖の目前、たしか誰かの Blog に自販機あるって書いてた気がするなと思い、みんなが向かう左手とは逆方向、大学生達がきゃっきゃわいわいしている右手の方へ目をやると、ありました、ロッジの側に赤い Coke の自販機が!迷わず向かったところ自販機は... なんでも選び放題やないかい!😍

おれは見逃さなかった

冷えたミニッツメイドを一気飲み。そこで満足して出発してしまうのですが、いま思えばなぜあの時、アクエリも買って水筒満タンにしておこうと考えなかったのか。。油断・慢心がありました。

うだるような暑さの北竜湖脇の林道を走ったり歩いたりしていると、37km 組の先頭集団が登場し、颯爽と駆け抜けてゆきます。皆さん走れ過ぎてて怖いぐらい!どうなってんの?!自分は温存・マイペースで進みますが、ミニッツメイドでの回復はいずこへ。またしんどさが戻ってきます。

いったい俺はなぜこの美しい湖畔で死にかけているのだろう

  • そういえば毛無山の後で、心臓痛かった。おれ今日走って大丈夫なんかな。死んだら大会に迷惑掛けちゃう
  • どうも横隔膜の差し込みがひどい。珍しいぐらい。少しスピード上げるだけで痛むな
  • 右足の股関節だめだな。治りきってない。痛みで脚が上がらなくなってきた
  • 疲労で両足ともパンパンじゃん。これ最後まで持つのかな
  • なぜこんな暑さに。湿度も高すぎる。これじゃ 2019 年の美ヶ原の再来だよ、あれはきつかった。おれは雨のレースに備えてきたのに、想定外だ
  • ろ過器を置いてきたのはミスだった。あれがあれば汚れた水だって飲めたのに

...など、弱気が一斉に吹き出てきてしまいます。この悪魔は大抵のレースで襲いかかってくるんですが、あまり長時間、悪魔のささやきに晒されていると、多分心が折れてリタイアでしょう。

しかししばらくの後、弱気になっている自分を攻めるもう一人の自分が出てきます。

  • 何を弱気になってるんだ。ダサすぎる。かっこ悪すぎる
  • 弱気は大抵、頭に糖分足りてないだけだろう。ザックに詰め込んだジェルもバーも、全部食べきってみればいい
  • 心臓と横隔膜の差し込みは、水分とミネラル足りてないからだろう。水は温存しつつ、このあと出てくるのを祈って。ミネラルはジェルと塩熱タブレットで補給だ
  • 股関節は伸ばしちゃダメな痛みだ。なら逆に屈曲させて、伸びた間接を縮めるんだ
  • まだ序盤戦だ、こんなの過去に経験してきた絶望の縁ほどじゃないぜ

そうだそうだ、全部対処できそうだという気になってきます。急いで食料を口に放り込み、股関節は何度か強めに屈曲したら、痛みが緩和しました。少し気力が戻ってきます。

そうこうするうちに終わりの見えない永遠の石段が登場。ポールに頼って、ゾンビウォークしながら一歩ずつ登ります。すぐ前では、高齢者のハイカーさんが周りのトレイルランナーを励ましています。トレイルランナーより元気な高齢者、すごい!

ゾンビウォーク みんなでやれば スリラーだ

しかし永遠の石段を終えたその後も、容赦のない斜度の登りが続きます。標高図を取り出してみると、小菅神社は標高 1000m あたりのようです。このあたりで高度を見たときはまだまだだったので、COROS 壊れてるンじゃないの?とビビりましたが、とにかく高度も頼りに小菅神社を目指します。

ラスボスみたいな鎖場を超えて...

これも無駄に自分得意なやつ

もう少し歩き続けて、小菅神社獲ったどー!なお、バラック小屋みたいなのがあるだけでした。

【追記】2022.8.7 この三週間後に Nozawa Trail Fes を走って気づいたのですが、左手の進行方向に進まず、右手の灯籠へ進むと、階段上に寂しげな小菅神社があります。なんとこの裏手に、最高に冷たい水場が!信心深い人だけが得られるボーナスエリアって感じが✨

少し進むと、がっかりするなかれ。なんとまだまだ登ります😵高度1000mあたりでクリア、女神の森に到達です。

1000m、女神の森。そしてつかの間の平坦トレイル

平坦なブナのフカフカトレイルを走ります。

水はほぼ使い切っていたので、ちょっとプレッシャーが掛かりますが、泣き言言っても始まらないので下り始めます。 さてこの下り、もう疲労とプレッシャーで記憶がありませんw レース前に参考にしたブログの皆さんの記事を読んだところ、崩れた階段とか、林道とか、ロードだったようですが、どのブログにもたいした情報がなかったので、みんな同じように記憶を飛ばしたんでしょう。

【追記】2022.8.7 注意、激下りです!

水がほぼ尽きた状態で下りきった時に、分岐に経っていたボランティアの方に「会場までの間に水場はあります?」と鼻息荒く聞きましたが、多分ない、というきっぱりした答えが。聞かなきゃよかったw

しかし実際は、しばらく進むと小さな用水路が出てきたので、迷わず水を汲み上げました。見る限り透明度は高くきれいだったので、少し口に含むと、美味しいし冷たいし、一気に生き返ります。周りのランナーも釣られて続々集まってきて、水を飲んだりかぶったり。更に進むとゴルフ場があり、ここにも赤い Coke の自販機!立ち寄る人もいます。この大会、レース中にコンビニなどはないので、自販機での補給は命綱です。

小菅神社から下り1時間ほどで、メイン会場に戻りました。時間は 14:15 頃、7 時間以上が経過しましたが、さぁここから最長の第三セクションへ突入です!

第三セクション - 26km

右上、赤色の第三セクションへ

弱気はもう消え失せて、ここまできたら地べたをはってでも第三セクションやりきるぜ!という気持ちです。第二セクションでの弱気の反省から、とにかくしっかり食べて、飲んで、ろ過器も持って再スタートします。

第三セクションはまずスキー場脇の林道を登ります。スキー場の直登じゃないところに主催者の優しさを感じます。スキー場の直登、何度もやらされてきたからね。スタートから 5 分と経たずに水場も出現。

エイドで水分補給忘れたうっかりさん用

30 分程のアップダウン後、日影スキー場に到着。ここでは自販機やスキー場のレストランなど、補給し放題です。美味しそうなイチゴのかき氷食べたかった!スキー場でアクティビティに興じている皆さんは、続々とやってくる疲労困ぱいで死に体のトレイルランナー達を奇異の目で見つめていました。

眼前に開けた日影スキー場

おれここにずっと留まりたい

スキー場下のロードを抜けて林道へ突入後、林道やスキー場用の作業路を登り続けます。ほとんどの人はもう走っていないのですが、自分は走れるところは走ります。歩くときも攻めて歩きます。ここで温存してしまって、ゴール後に出し切らなかったことを悔やみたくなかったので。

元気あり余る女性がバディの男性にはっぱ掛けている絵

休憩する場所もなく、とにかく登って登って登りまくります。斜度はきつくないのですが、もう脚も体力も限界が来ているので、走っているとはおせじにも言えない低スピードです。

日影スキー場から 1.5 時間ほど経過して、巣鷹湖にたどり着いたのは 16:40 頃。いまさら雨雲がやってきました。おせーよ!w

巣鷹湖にも自販機が。迷わず一本ゲット。

巣鷹湖と赤いエイド

距離的にもう第四関門は近いはずで、そこで水分補給はできるから、欲張らなくていいかな?と判断したのですが、実際は巣鷹湖から第四関門までは結構距離があり、林道やブナ林のトレイルを 45 分ほど更に登り続け、ようやっと最終第四関門に到着しました。時間は 17:30。

雨降りしきる第四関門やまびこ駅エイド

雨足が弱まる気配も感じていたので、レインはすぐに脱げるようにしつつ、ナイトトレイルに備えてライトを装着。エイドで少量の補給食を頂いた後に、地上を目指して下り始めます。

スキー場、シラカバのトレイルエリア、林道、舗装路などを下りますが、もう脚はいっぱいいっぱいで、踏み出すたびに痛みが。しばらく前から股関節は、もう屈曲させても痛みが取れない。関節が馬鹿になってます。

舗装路では、遅いながらも、抜かれまくりながらも、走ります。キロ 7 ぐらいしか出ない。しかし根性にすがって走り続けていたら少しずつ痛みが消えてゆき、走りが戻ってきました。脚が温まってきたのか、ゾーンに入ったのか。スピードはどんどん上がって 5'30"/km で安定して走れるように。抜かされた人達に追いつき、どんどん巻いてゆきます。

18:45、突如展望の良いところに出て、夜の帳が下り始める少し前の野沢温泉村エリアを一望できました。ありがとう、しんどかったよ野沢温泉村

この絶景を見に来た

このまま舗装路でゴールインさせてくれて良かったのですが、登りも含む最後のトレイルパートが用意されていました。これには完全に残っていた力、全部持っていかれました😵 ただただ痛みに耐えて走り続けて、再び日影のスキー場に出たときには、もう精根尽き果てていました。

汗も出すぎて、横隔膜の差し込みの痛みとまた格闘していたところ、同じ宿に泊まっていた女性が自分を見つけて声を掛けてくれました。まだまだ元気そう、すごい!

自分はもう走れないから先行ってください〜と伝えて見送り、ひとりとぼとぼと歩きます。歩いていると沢山のランナーが、最後の力を振り絞って走っているだろうに「ファイト!」とか「ほらラスト!」とか声を掛けてくれて、なんて人達だと感激。歩いたりちょっと走ってみたりしながら、共にゴールを目指しました。

しばらく前に「60km」のカンバンを見て、今手元の時計の距離から計算すると、あと 1.5km でゴールなはず。もう終わりだと安心していたら、最後の分岐を保守しているスタッフの方が笑顔で「あと3kmちょいです!ガンバ!」と。これが結構、精神的に大ダメージでしたw 周囲のランナー達からも「嘘だろ」「聞きたくなかった」「これは詐欺だよ」と悪態が噴出していたので、限界を超えていたのは自分だけではなかったようです。

暗い時間にも関わらず、沿道の応援がありがたかったです。もうどれだけ声援もらっても走れる脚は残っておらず、代わりに力強く歩くのみでした。オリンピックスポーツパークに向けた最後の坂を再び登ります。

坂の途中では、すでにゴールしたランナー達がエールを送ってくれます。前後のランナーとは十分に距離があり、ひとりずつゴールの雰囲気。そして自分の番です。「お帰りなさい!!」のマイクアナウンスと拍手と喝采に包まれて、ゴールしました。

ゴールゲート。遠かった、長かった。

12 時間 52 分。疲労感半端無い。もう全部出し切って、何も残っていなかったです。

レース後

ベースキャンプへ戻るも、椅子に座ったあとにもう立てないし歩けないので途方に暮れますが、汗を洗い流したいし、何か食べたいし、ビール飲みたいので(笑)、頑張って撤収。移動を開始しますが、宿までの距離がやたら遠く感じます。自分がしてもらったように、ゴールへ向かうランナー達を拍手で励まし讚えて見送りながら、なんとか宿へ。

途中で居酒屋とんきちに立ち寄って、ラストオーダー時間を確認したところあと40分ぐらいはあったので、荷物を宿に置いて顔洗ったり最低限の着替えの後、居酒屋にin。日影のスキー場でも会った、同じ宿に宿泊していた女性が先客でいたので、声を掛けあって一緒に乾杯し、たらふく食べたりビールを飲みながら、レースを振り返り&讚え合い。話は尽きませんでした。

食事後は近くの外湯で汗を流して(24:00 まで開いているのはありがたい)、後は爆睡です。

振り返り

距離 65km と累積標高 4100m という数字とは裏腹にかなりキツく、万全の備えが必要なレースでした。ギアの準備、補給計画、各種トラブルへの備え。油断は禁物です。

2022 年大会の天候は、昼から雷雨の予想が外れ、結局終始かなりの暑さと湿度でしたが、こういったこともトレイルレースでは往々にしてあることなので、天気予報を鵜呑みにしてはいけないなと思いました。どうせ予想外の天候になるんだろ、ぐらいの心持ちの方が良いです。

三つのセクションを回り、本陣に戻れる機会を活かせるかは大事です。移動時の荷物を減らし、休憩時のリカバリー&リフレッシュを最大化できるかは、勝負の分かれ目になると感じました。

どのセクションも優しくはなかったですが、距離の短い第二セクションが山場でした。この記事を書いた後に、第二は水 1.5L あった方がいいというアドバイスをもらいましたが、完全に同意です。

そうだ、大事な点がひとつ。ポールが大活躍でした。ポールがなけりゃ、多分プラス 2 〜 3 時間掛けながら、関門戦士になっていた可能性が。半数程度の人はポールを持ち込んでいた印象ですが、ポーラーか否かで足取りがあきらかに違っていました。かなりの上級者・猛者以外は、ポールの持ち込みを強くお勧めします。ただ、ポールは使いこなせないと邪魔になるだけです。事前にポール練習をしておきましょう。

レース自体はというと、主催者の人柄が垣間見える雰囲気の良い、気持ちのいいレースでした。エイドもほぼ満点で、これ以上の贅沢は言わないです。水しかないので、スポドリ粉末の携行推奨です。

そして何より、野沢温泉村が気に入りました。自分は 8 月の Nozawa Trail Fes にエントリーしており、もう一度第三セクションの後半と第二セクションまるごとを走るので、今回の経験を活かして、友人と一緒に楽しんできたいと思います。

飯山のセブンイレブン野沢温泉村クラフトビール買えました。お土産に是非。

ずっと心臓病だったと知って

2020年6月27日。走りはじめてしばらくすると心臓の下部から脇腹に嫌な感じの痛みが。それから二ヶ月近く経って、ついには歩くだけでも痛みが出るようになったのと、後述の"疑わしい所見"に気づいたので、8月下旬から専門医に掛かっていました。

そして今週実施した検査で判明したのですが、私には先天性の冠動脈形成異常、単冠動脈症という心疾患(心臓病)があると分かりました。

これは、比較的カジュアルな検査である胸部レントゲンや心電図検査では発見できない種類のものです。今回、先端的な医療設備のある専門クリニックで、心臓CTを撮ったことで発見に至りました。

医師曰く「稀ではあるが、たまにいる」そうです。うーん、吉祥寺に出るタヌキみたいな?

なお心臓周辺の痛みについては、単冠動脈症との因果はまだ分かっていません。

単冠動脈症とは/そして私の場合

以下、日本臨床(2007.09) 別冊 循環器症候群IIからの引用です。

単冠動脈症は先天性の冠動脈奇形の一種である。冠動脈の開口部が1つのみであり、その唯一の冠動脈によって、心筋全体が血液の供給を受けるものと定義される。

更に分かりやすく、心臓の画像を用いながらの解説を。これがご存じ、心臓ですね。

f:id:nuichi:20200829181158p:plain <通常の心臓。※画像転載

上の図のように、右冠動脈と左冠動脈があります。左冠動脈は更に、前に這う血管(左前下行枝)と後ろに這う血管(左回旋枝)に分岐します。

冠動脈は、心臓そのものに血液を送る役目を担う重要な血管です。更科功さんの著書「残酷な進化論」では、冠動脈について分かりやすく説明されていたので、こちらも引用しておきます。

 しかしここで疑問が沸いてくる。体中の細胞に酸素を届けるために、毎日24時間働いている心臓自身の細胞には、どうやって酸素を届けているのだろうか。(中略)心臓の外側から、心臓全体に酸素を届けなければならない。

 これを可能にしているのが、心臓から出た大動脈からすぐに枝分かれする冠状動脈という血管だ。冠状動脈は大動脈から分かれると、心臓の表面に伸びていって、月桂樹の冠のように心臓を取り囲む。

さて通常は大動脈から二本生えるはずの冠動脈。私の場合はというと、下記のように右冠動脈が、左冠動脈の根元から分岐していることが分かりました。

f:id:nuichi:20200829181319p:plain <私の場合。右冠動脈が大動脈から生えなかった>

単冠動脈症は、冠動脈の這い方によっていくつかのTypeに分けられます。現在活用されているのがLiptonによるType分類で、私はLipton II-Aに該当します。

治療と検査についての中間報告

ここでもう一度、「残酷な進化論」より。

このように心臓全体に酸素を運ぶという重要な役目を担っているにもかかわらず、冠状動脈は直径が2〜4ミリと細いため、詰まりやすい。冠状動脈を流れる血液が減ると狭心症になり、激痛が起きる。そして、心筋細胞に血液が十分に流れず酸素不足になると、心筋細胞が死に始める。これが心筋梗塞だ。

 (中略)ところが、私たちが激しく運動をしているときは、心臓の拡張期が短くなり、冠状動脈に十分な血液を入れることができなくなる。つまり、心臓がもっとも酸素を必要としているときに、十分な酸素を受け取ることができない構造になっているのだ。運動中に狭心症を起こしやすいのはそのためである。

 血管の内側にコレステロールなどが溜まって、血液が流れにくくなったり血管が硬くなったりすることを動脈硬化という。狭心症心筋梗塞は、冠状動脈の動脈硬化によって起きる。

実はこれを読むまでは「心臓の痛みはきっと鍛錬不足だ」と考えて、むしろ痛みを思考の外に追いやり、走り続けていました...。この一文を読んで「!そういえばこの10年、どう生活改善しても健康診断では悪玉コレステロール値が高く出る。そして今、走り出すだけで心臓に痛みが...。」

なので私は最初、狭心症を疑いました。肉体労働中や運動中に発現するものを「労作性狭心症」と呼ぶことを知り、これだろうと。駆け込んだ先のかかりつけ医の最初の見立ても「労作性狭心症の疑い」でした。

その検査過程で単冠動脈症を発見するに至ったわけですが、発現している痛みについては、今のところ因果関係が不明のままです。心臓CTでは、動脈硬化、狭窄といった所見はみられなかったのです。

ただし、私の場合は左右冠動脈が合流している左冠動脈本幹はどうしても負担が高く、ここには若干のコレステロールプラークも見て取れるとのこと。このことからまずは、

1.悪玉コレステロールを投薬治療で下げて、プラークの除去をはかる

という投薬治療を速やかにはじめつつ、

2.労作時の痛みが何に起因しているかを探るために、同等条件化での心電図を取得する

という調査・検査を今後行ってゆきます。

この形成異常が、子供達へ遺伝していないかがとても気になっています。子供達に心臓CTを受けさせれば判明するはずですが、造影剤を点滴投与しての検査、本人達も私も辛い。先天性の心疾患が子にも発現する確率はやや高い、というエビデンスはあるのですが、単冠動脈症もそれに該当するのかがまだ分かっておらず、かかりつけ医にお願いして文献を調べてもらっていますので、一旦はその結果を待ちます。

42年を振り返って

もしも冠動脈が生えている箇所が肺動脈からだったりすると、若くして心筋梗塞を発症して亡くなってしまう方もいるそうです。

その点では私は幸運にも、異常とはいえ生えている場所が致命的な場所ではなかった。また、おそらくランニングをはじめとしたスポーツを通じて、冠動脈が丈夫に鍛えられているのは間違いないですし、シリアスに取り組んできたからこそ食事や生活にも気を遣っていて、動脈硬化、狭窄はまだありません。

42年経った今日まで、痛みなどの違和感・異常も発現せず、こうして生きてこられたのは、ランニングや生活習慣への意識の賜物だったなぁと感じています。

元々私の死生観は「明日死んでもいいように、毎日を生きる」です。

今、これに拍車が掛かりました。これまで以上に、明日死んでも後悔がないように日々行動しなければ、と。

直近について

引き続きしばらく激しい運動は控えます。9月中旬頃には、大学病院でトレッドミルを走りながら心電図データを得ることになりそうですが、これにより今後の運動負荷レベルを決められるでしょう。

また、痛みが出た頃から山に入るのは避けていますが、これも継続します。過去に高尾山で、急逝したトレイルランナーを看取った経験から、山は電波も通らないですし、倒れた時に致命的です。

なぜかバイクは不思議と全く痛みがでない...ので、ライド頻度は増やすことになると思います。

そしてランニングについて。俺は果たして今後の人生で、中長距離、ハーフ/フルマラソンウルトラマラソントレイルランニングを、どこまでの強度でならまたできるのか・できないのか。

もっと記録を更新して高みに達したい、という望みが断たれるとしたら、これはなかなかショックです。

ただ、今日時点では考えても答えはでないため、ともかく今やれることをしっかりやりたいと思います。

進展はTwitterで報告します!

Adidas Adizero Japan愛用者による細かすぎるJapan 5レビュー

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Adidas Adizero Japan 5。このシューズほど「手を出すべきか否か」とランナーを悩ませ続けているシューズはないでしょう。かくいう私もその一人でした。

Adidas Adizeroシリーズには、今現在販売されているすべてのランニングシューズの中で最も信頼を寄せてきました。

普段のトレーニングでも最も出番の多いシューズです。カーボンプレートが入った厚底や、アウトソールをプラスチックのチップでコーティングしたシューズはシチュエーションを選びます。

一方、Japanなら大抵の場面は問題ない。これは私だけでなく、Japan愛用者の多くが感じているところでしょう。故に、愛情と敬意を持って「オールラウンドシューズ」という呼ばれ方をしています。この呼び方は、特徴がないという意味ではないのです。どんな場面でも頼れる "奇跡の万能シューズ" 。出会って以来、シューズに関する細かな悩み・ストレスは消え去り、トレーニングに集中できるようになりました。

しかし・・・Japan 5。このシューズが発表された時はもちろん、期待に胸躍る思いでしたが、値段がこなれてくるまで待ちながら情報収集していても、どこからも "信頼できる良い評判" が出てこない。公式オンラインショップに真っ先に投稿されたレビューでは、Japan愛用者の悲鳴が書かれていた時もありました。今はレビュー、消されていますね...。

発売から7ヶ月経った現在、公式オンラインショップやAmazon.co.jpには可も不可も無いレビューが...いや、どちらかといえばポジティブめのレビューを見かけますが、如何せんレビュアーの走力も分からないため、判断に迷います。

情報筋として最も信頼できるのがTwitterです。普段から交流している皆さんの走力や、愛用しているシューズの系統もおよそ把握しています。しかし、誰もJapan 5を買わないw

ということで、今回のレビューが参考になれば幸いです。

販売価格

2019年12月10日に発売開始、定価は15,400円です。今はようやく普通のシューズの価格帯に落ちてきており、2020年7月25日現在、公式サイトではセール 7,700円(税込)、Amazon.co.jpでは8,980円(税込)。私は近所のXEBIOで7,590円(税込)にて入手しました。

発売以降の価格変化をAmazon.co.jpで見てみると、3ヶ月後にガツンと10,000円前後に。そこから二ヶ月ほど経過して、今の価格帯に落ち着いていますね。

f:id:nuichi:20200726100006p:plain Amazon.co.jpのJapan 5価格推移。Keepaより>

サイズ

XEBIOで足入れをして確認しました。靴下は抜かりなく、普段の練習時に履いている靴下 "injinji ミニクルー” にて。履いた感触としては、私はJapan 4と同じだなと感じました。店員さんも「前モデルと同じ良いと思いますよ」とのこと。

この点、ネットのレビュー記事では「0.5cm下げるべし」という声もあるので、サイズ感にセンシティブな方は必ずお店で足入れしましょう。

重さ

公式オンラインショップには27cmで224gとありますので、Japan 4とほぼ同じ、軽量シューズの部類と言えるでしょう。

私が買った27.5cmのwideをスケールに乗せて測ってみたところ、左足は約223g、右足が235gと大きく異なっていたので尻もちをつきそうになりました。

f:id:nuichi:20200726100333j:plain <スケール二機種で試し、何度も置き直して確認した>

シューズの重さはよく量るのですが、左右でこんなに違うシューズもあるんですね。これからは必ず、左右両方とも量ることにします。

従来Japanとの比較

ズバリ分かりやすく、従来のJapanと比べたときの大きな違いは次の5点です。主観的な影響度順に並べています。

  1. ミッドソール部を「Boost x [新素材]LIGHTSTRIKE」に変更
  2. アッパー素材を「セラーメッシュアッパー」に変更
  3. ドロップの変更
  4. アウトソールのレイアウト変更
  5. シュータンは完全に刷新

細かいですが無視できない変更点としても、

  1. シューホール周辺のストレッチ防止コーティング
  2. シューレース(靴紐)の素材変更

さて、ここまで変えたとなると、逆に変えなかったところはヒールカップとラストぐらい?とするとこのシューズはJapanと言えるのか?

自分の人生にとって大切な一足が「テセウスの船」と化してしまったような気がしてやや狼狽しますが、気を取り直して、写真とともに順に詳しく見てゆきましょう。

1. ミッドソール部を「Boost x [新素材]LIGHTSTRIKE」に変更

ミッドソールは刷新されました。初採用されたLIGHTSTRIKE(ライトストライク)とは何かというと、『一般的な衝撃吸収素材であるEVAに比べて40%軽量で、アディダスの「BOUNCEフォーム」よりも高い反発力を持つ』とのこと。

あ、あれ?Adizero Sub2 に採用されたBoost Lightは採用されなかったのか...と意外に感じました。BOUNCEフォームについてほとんど注意を払ってこなかったのですが、改めて調べてみると、ベコジやRCで使われていたあれのことですね。

Japan 4と比較すると一目で分かるのですが、この部分の違いです。

f:id:nuichi:20200726100354j:plain <側面からのミッドソール比較>

なおJapan 5のソールを裏から見てみると、前足部にまったくBoostが使われていないわけではなく、薄くBoostも入っています。

f:id:nuichi:20200726100500j:plain <Japan 5のアウトソール。Boostが存在することは視認できる>

ただ、これまでのJapanのミッドソールの主役がBoostだったのに対し、Japan5からは、

  • 前足部:ほぼLIGHTSTRIKE ※Boostは極薄
  • ヒール部:BoostとLIGHTSTRIKEのハーフアンドハーフ

と、思い切った変更を加えています。

Japan 5を愛用しているランナーの走力やトレーニングの内容を考えると、このシューズはフォアミッドやミッドフットで使われる場面が多いと思います。

そこに、前足部をBoostではなく「ほぼLIGHTSTRIKE」とした点、かなり思い切った決断だなと感じます。この新しいミッドソール素材とデザインに、従来のJapan愛用ランナーを納得させられるどんなファクトがあったのかなと想像しています。

2. アッパー素材を「セラーメッシュアッパー」に変更

アッパーも刷新されました。前作はエアメッシュアッパー、いわばオーソドックスなランシューのアッパー素材でしたが、今回はハイテクな感じです。軽量化や通気性という点では好印象です。インソールが透けて見えますね。

f:id:nuichi:20200726100607j:plain <透け透けのアッパー>

雨に濡れても水分を吸わず重くならなさそうですし、洗った後の乾きも早そうです。

f:id:nuichi:20200726100657j:plain <前方からのアッパー比較。名残はなし>

3. ドロップの変更

ドロップは変更されていますが、この点は解体してみないと正確な事実が分かりません...というのも、カタログスペックでは、Japan 5が "DROP 9.5 mm" に対してJapan 4が "DROP10 mm" となっています。

しかし、月間陸上競技のWebメディアでの記事には「前作よりもドロップを1~2mmアップさせたマイクロフィットラストを採用」とあります

つまり真逆ですね。ここは走ってみて確認しましょう。

3. アウトソールのレイアウト変更

アウトソールのコンチネンタルラバーのレイアウトは、3から4の際にはほぼ変更されませんでしたが、今回は刷新されています。

f:id:nuichi:20200726100736j:plain <上はJapan4、下はJapan5>

1100kmほど走った私の汚れたJapan 4との比較で申し訳ありません...。しかし見比べれば、レイアウトの類似点は無いと分かるでしょう。

凹凸の盛り上がり部分は、若干ですが従来のJapanよりも高くなっているように見えました。

f:id:nuichi:20200726100805j:plain <凸の盛り上がりが気持ち高めのような>

5. シュータンの変更

シュータンも刷新されました。Nikeには20年以上前から、タンとインナースリーブを一体化させたシューズがありますが、あの手のデザインです。

f:id:nuichi:20200726100835j:plain <シュータンの素材は薄手でストレッチが効いている>

シュータンの厚みが減って薄くなり、足に吸い付くようなフィット感。足とシューズに良い一体感が生まれています。

その他の変更点:シューレースとシューホール

シューレース(靴紐)は、どこでも買える綿100%の紐です。Bostonではこのシューレースが採用されていますね。Japan 4までは、合成素材のシューレースでした。シューレースは摩擦によって解けづらいなら何でも良いのですが、綿100%の方が解けづらいというデータがあったのかな。合成素材のシューレースでもあっさりほどける時はあるので、どちらが優れているかはデータがないとなんとも分からず、です。

シューホール周辺のコーティングが最近流行っているのでしょうか。Nike、SALOMON、etc... そしてついにJapan 5にまで。これについて言及しているランナーにはほぼ出会わないのですが、私は長らく頭を抱えています...インプレッションの締めで触れます。

最後にヒールカップ。これは従来と同じフィーリングでした。

f:id:nuichi:20200726100950j:plain <厚みを入念にチェック。同じです>

さて長くなりましたが、インプレッションへ!

インプレッション

EペースジョグからMペース、Tペース、ついでにRペース走と坂道走までをくまなく試してきました。天候は曇り、ロードはほぼドライで、身体はちょっと重めの出だしです。

先にお伝えしておくと、私の戦闘力はハーフマラソン1:23'、フル3:01'です。

以降、先入観なく、フラットにシューズからのフィーリングを捉えられるよう、心がけました。

Eペース(5'00"/km前後)

道路に立ってみると、アウトソールのコンチネンタルラバーは強力で、地面をしっかりグリップしています。これなら安心してスピードを上げそうだな、と感じました。

f:id:nuichi:20200726101250j:plain <汚い脚を、すみません>

早速ジョグ開始。すると、おっとやっぱり違うな!とすぐに感じます。

まずはドロップの違いです。着地がわずかに前傾になるなと感じます。カタログスペックではドロップが減っていましたが、実際には月間陸上競技の記事通り、ドロップ差が増えているのではないかな。

それと同時に、ミッドソールの違いも分かります。私のジョグはミッドフットで、ほぼ中足部から着地後、足裏全体に体重が掛かる着地ですが、反発の印象はヒール部は強め(買ったばかりのJapanという感じ)、前足部からはほぼないという感じです。ヒール部でやや強めに押される感じがします

新アッパーの「セラーメッシュアッパー」には、しばらく違和感がありました。厚手の網戸に足を突っ込んで走っているような...この感覚ははじめてで、妙にアッパーがへごへごする。気にせずに走るしかないなと。

総じてジョグでは、割り切って許容できる範囲です。

Mペース(4'30"〜4'40"/km)

夏はスピードが上がらない...本来のMペースよりも遅いのですが、心拍でペースを管理しながら走っています。

MペースはEペースジョグと比べると、接地時間が短くリズミカルになります。同時に加重のバランスは、私の場合はミッドフットからややフォアミッドへ変化します。

すると、ジョグの感じからまぁそうかなと思っていましたが、前足部をLIGHTSTRIKEに寄せたJapan 5では、Japan 4以前にあった地面から得られるパワー・反発が少なく「ラクに気持ちよくスピードを上げて維持」できる感覚がありません

Mペースでは「いかにしてリラックスしながらスピードを上げられるか」が肝なのに、これは結構しんどいなと感じました。

Rペース(3'00〜3'10/km)

順序からはTペースに移行すべきところではありますが、お気に入りのFKT区間に差し掛かったため、630mのRペースを試します。

快調走より少し速いスピード域ですが、距離はそこそこ長いこの区間、半分過ぎた辺りからはフォームを崩さず・呼吸を乱さずにどこまで粘れるか、という頑張りも必要です。私のR走はフォアミッド〜フォアフットです。

まず、コンチネンタルラバーのアウトソールには助けられました。ブレずにしっかりと地面をグリップしていて、かといって地面にまとわりつく感じもなく、安心して身体を預けられます

しかし、Mペース以上に前足部を使う走りのため、やはりLIGHTSTRIKEからは乗り込んだ後の地面からの反発は得られず、その点で若干ながら接地時間も長く感じます。これはRCを履いてスピード練習している時の感覚と似ているな、と。

その分、お尻やハムストリングの出力と負担があがっているのを感じます。この点では良い「トレーニング用シューズ」とも言えそうです。

坂道走

いつものランニングコースには150m程の短い坂があり、ここは全力一本勝負、と決めているので、駆け上がってゆきます。

しかし面食らったのが、やはりドロップ差が大きくなったからか、普段はヒール部の接地を感じないのに、しっかりと感じとってしまうのが気になります。しかもヒール部はBoostが多いので無駄に跳ね返ってくる。普段と比べてリズムの悪い坂道走になりました。

Tペース(4'05-4'10)

少しEペースで徘徊した後、最後にTペースを確認。

坂道走と感触が似ていて、Mペース以上のヒール部の反応の速さ、一方で前足部のおとなしさによって、どうも疲れるTペース走になりました。実際、練習後半でちょっと疲れてもいたので、次回はEペース後にTペース3km x 2やTペース5kmも試してみたいと思います。

走り終えて

実はR走のしばらく後から、左脚だけインソールを抜かなければなりませんでした。シューホール周辺の、ストレッチを殺すためのコーティングがされているシューズでは、私は左足親指の第二関節が十中八九、靴擦れになるのです。

f:id:nuichi:20200726101321j:plain <足の親指の第二関節の靴擦れ。左足のみならず初の右足も💧>

一度靴擦れすると三日は走れなくなるので、個人的にはなかなか辛い。若干厚みのある靴下をはいているのは事実なので、次回以降は薄手の靴下や、裸足でも試してみたいと思います。

この原因となるシューホール周辺のコーティングを私は「ストレッチキラー」と勝手に呼んでいますが、これ本当に必要ですかね?

f:id:nuichi:20200726104428j:plain <ストレッチキラーが俺を苦しめる>

ストレッチってありすぎてももちろんまずいですが、全くさせないというのもおかしいだろうと。

インプレッションまとめ

Positive👌

  • 従来のJapanと同じ足入れの感覚と軽量感。シュータン兼インナースリーブによって前よりも良いぐらい。かかとも良いホールド
  • 新レイアウトのアウトソールはしっかりとしたグリップで安心

Negagive🤔

  • ミッドソールとドロップの変更により、従来のJapanが持っていた「スピードを上げれば、それに応じてレスポンスも上がるフィーリング」は消えた
  • シューホール周辺のコーティングと相性が悪い人は、靴擦れに注意

Neutral😑

  • Tペース以上のスピードで、ハムストリングと臀部の筋肉の強化には効果的
  • アッパー素材の変更に違和感があるが、走っていれば忘れる

自分はどんな場面で使う?

  • 雨の日のジョグ

どんな人に推薦する?

  • 初級者向けのクッショニングモデルをやめて軽快に走りたい初級〜中級ランナー
  • ハムストリングや臀部の筋肉の強化に腐心する中級〜上級ランナー
  • かつてのJapan支持者は対象外

Japan 5からは "奇跡の万能シューズ" ではなくなり、鍛えるためのトレーニングシューズとしての位置づけに変わった、というのが私の結論です。

クセがなくフィット感が良い点から、怪我はしづらそうに思いますので、その点は利点のひとつでしょう。

最後に、Adidasに思うこと

いま、Adidasに対して思うこと。これはもう書き始めると長文になりますね。私も(IT系ではありますが)製品企画・開発・マーケティングの端くれです。また別の機会があれば書き殴りたいと思いますが、もしAdizeroシリーズの企画・監修チームやマーケティングチームが「Nikeその他の厚底にお株を奪われて、あの頃のように使ってもらえない・売れないなぁ」と思っているなら、勘違いだと私は思います。

Nikeの攻勢は激しいですが、優れたシューズはその中の一部です。にも関わらずAdizeroは迷走していて、Japanでは3の高い完成度を4でやや不安にさせ、5で破壊してしまった。私の周りには、仕方が無いので、ボロボロの3や4を使い続けたり、5ではなく4を買っているランナーもいます思った以上に多い!

今一度「誰に・どんなシチュエーションにフォーカスするのか」を再定義し、信頼できるファクト/データを元に、ターゲットランナーの協力を得て(私、そしてSNSで繋がっているランナー仲間達が喜んで協力するでしょう!)、沢山のランナーに支持され続けるシューズに回帰してもらいたいところです。

Amazonリンク

参考記事

トレランレースでの上手な行動食・行動計画の管理方法

友人数名からも反響があったので、トレイルランニングレースにおいて、行動食と行動計画を上手に管理する工夫をご紹介します。

B7管理法」と名付けました!

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UTMF2019に挑む際に、「行動食は分けて管理しよう」という考え方を知って試行し始めました。

それをベースに、今回ご紹介する方法は行動計画も併せて直感的に管理できるようにしています。また、エイド給食、補助食、Stock(備蓄食)、サプリメントの管理についてもフォローします。

上州武尊山スカイビュートレイル140で自分なりの完全版を試したところ、すこぶる快適でした。

「絶対に完走したいレース」の事前準備として、ひと手間掛ける価値はあると思います。是非ご検討ください。

【用意するもの】
・行動食
・B7サイズの小分け袋(100円ショップで入手できます)
・エイドの給食計画シート
・紙(A4でOK)、はさみ、サインペン

区間ごとに行動食と行動計画をパックする

行動食は補給する区間ごとに用意します。

直感的に使用区間に関する情報が分かるよう、A4の紙をハサミでB7小分け袋に入るサイズに切り分け、サインペンで使用区間情報を書き入れます。こんな感じです。

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エネモチもB7サイズで大丈夫👍

これならA3エイドからA4エイド区間用の行動食ということを、迷わず判断できます。

※以前は単に「A3」とだけ書いていたのですが、疲れてくると「これはA3から食べるんだっけ?A3までに食べるんだっけ?」と混乱してしまっていました。

更にこの紙に、行動計画も書き加えてゆきます。レース中の行動計画自体は、別途 Excel なりでまとめましょう。ただ、それは持ち出さずに、その区間に必要な情報だけを併記します。

この例では、A3が49.2km地点であることや、その下には関門時間が書かれています。17:20が関門で、そこから最大3時間35分行動し、20:55にはA4にたどり着く必要がある、というわけです。

A3の上に書いている赤い数字は、ゴールまでの残りキロ数です。上州武尊山スカイビュートレイルでは大会運営側が情報提供してくれていたので、計算不要で転載できました。疲労した脳では、ちょっとした引き算すらうまくできないので、残りのキロ数も書いておきたいところです。

なお今回私はたまたま、『A3あたりからは関門マイナス4時間で行動するぞ』と決めていたので、自身の目標到達時間の記載はしていないのですが、関門時間の下辺りに青ペンなどで、目標到達時間も併記するとよいでしょう

到着エイドの給食情報もパックする

このパックの背面に、次のエイドの給食が分かる紙を入れておきます。

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上州武尊山スカイビュートレイルの場合は、大会運営側が用意してくれた紙がちょうどよいサイズだったので、プリントして封入しただけです。

これを見れば、次のエイドが楽しみになってきます。

ここまででほぼ完成です。対象区間のパックだけを胸のポケットに入れ、残りはバックパックのメイン荷室へ。エイドに着く度に、これを入れ替えてゆきましょう。

またこのようにパックしておくと、対象区間外の情報を見ずに済み、終わるごとに「情報」を捨てることができます

※以前は行動計画と給食の全情報をそのままプリントしていたのですが、不要となった過去区間情報が残り続けるため、取り扱いが煩雑でした。

また、行動食や行動計画をまるごと落としてしまうとかなり痛い。実際、レース中に落ちているの、見かけたことありますよね。

このパックなら、うっかりポケットから落としたとしても、残りのパックは背中のメイン荷室にありますから救われます。

以下が主なメリットです。

  • ✓どの区間用の行動食か、直感的に分かる!
  • ✓その区間のスタートエイド・ゴールエイドのコース情報(地点距離、残距離、関門時刻、目標時刻、行動想定時間)がひと目でわかる!
  • ✓次のエイドの給食が分かるので、元気になるし、それを念頭に行動食の調整ができる!
  • ✓思考することが減る!
  • ✓落としてもレースがジ・エンドとならない!

補助食の併用

区間ごとの行動食とは別に、自分好みの補助食を用意しておくことをおススメしたいです。補助食は、レース中いつでも(若干の空腹時や、気を紛らしたい時、眠い時などに)自由に食べてよい、とするものです。

私はメインの行動食は1時間に一度、機械的に摂取することにしていますが(Garminのアラームで管理しています)、そのタイミングではない時に空腹感があれば、補助食を食べます。私自身はというと、グミとねじりきなこを少量持ってゆくのが最近のスタンダードです。

補助食の最低限の注意点としては以下です。

  • 食べ飽きないもの、好きなもの
  • 辛かったり、口が渇かないもの。水分を無駄に消費してしまうので
  • 夜の気温が低い時でも、固まらないもの(水分多いと意外と凍ってしまう)

いざという時のための少量のStock(備蓄食)

レース全体において、想定よりも行動食が足らなかった時に備えて、Stock(備蓄食)を少量、別に用意してまとめておきます

Stockは、持っているか・いないかで空腹時の精神安定度合いがかなりが変わるので、少しでもグラム削ろうとか考えずに持っておきましょう。

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サプリメントは別にまとめる

エイドに到着してから摂取するもの、例えばリカバリー用のサプリメントなどですが、これらは先ほどのパックとは別にひとつにまとめてしまった方が何かと邪魔にならないです。

エイド到着後に、身体の状況に合わせて選択し、摂取します。

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この例では MUSASHI NI と VESPA ですが、これ以外に私は、芍薬甘草湯、βアラニン、Co-Q10 あたりを活用しています。

最後にすべてをパッキング

B7サイズのパック群は、EXPED の Clear Cube S(寸法:16.5 × 12 × 5cm)にピッタリ収まります。透明で見やすいですし、無駄な隙間が生じず、防水性が高くて中身が濡れたことがありません。

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EXPED Clear Cube Sはピッタリサイズ

以上、トレイルレースにおける行動食と行動計画のお勧め管理方法でした!

「試してみたよ」とか「もっと良い方法あるよ」など、フィードバック頂けますと嬉しいです。

第六回 上州武尊山140 完走記 2/3【後編】

第六回 上州武尊山スカイビュートレイル140完走記、後編をお届けします。写真が少なくて華やかさに欠け、すみません笑

ほとんどがゾンビの行進で面白味が薄いかもですが笑、後半に覚醒🔥の出来事を書きました。

もし他にもこういったご経験がある人がいたら、このブログか Twitter@nuichi にコメント頂きたいです!

A5おぐほたかスキー場

スタートしてから17時間以上を経過した21時16分、ほうほうの体でレース中間地点のA5おぐほたかスキー場エイドにたどり着いた。

入り口でデポバッグを回収しエイド内へ踏み込むと、まさに野戦病院。床に倒れ込んで熟睡している人。毛布にくるまって震えている人。今にも吐き戻しそうな青白い顔で、ちょっとずつカレーライスを食べている人...

その合間を抜けて奥へと進み、座れる場所を確保。

ふいに、運営ボランティアの男性が「9時30分発川場村行きのバス、まもなく出発しまーーす!」と大声を上げながら入ってきた。ランナーは皆、一様に目が泳いでいた。

そんな誘惑には目もくれず、手早く出発の準備を整えてゆく。着替えを終えて、補給へ。デポバッグには今回初導入の白桃の缶詰(好物)、それとUFO焼きそば。しかしエイドのカレーライスが美味しそうだったので、カレーにウィンナー二本をのせて頂いた。

どうも最近は、ロングレースでも胃の調子がいい。今日も終日そうだが、食べ続けられるのだ。昔はそうでもなく、食が細ったものだが。白桃の缶詰を完食し、カレーもパクパクと平らげる。

疲労した身体を休ませたうえで、美味しいもの食べて身体が温まってしまうと、この後は眠気が来そうだ。このために10日間ばっちりカフェイン抜きをやったので(コーヒー好きには本当に辛かった...!)、トメルミンを飲んでおく。

計35分ほど休んで、準備万端、さー出発という時に、目の前にわたDさんが!

互いにここまでの健闘を称え合う。わたさんは今から計画的に30分だけ寝て、再出発するとのこと。自分は怪我やら脚ぶっ壊れているやらで悲惨なので、早めにもう行くと告げた。

その後ろでボランティアの女性が、リタイアか迷っているランナーに対して「この後の小さな急登が最後で、そこから先はもうきつい登りはないんだから、行くっきゃないよ!」と励ましていた。この時はそうなのかと思ったものの、今なら言えるが、あのランナーそれを信じて出発していたとしたら、よっぽど女性を恨んでるだろうな。破壊力すさまじい登りが、まだまだいくつも続いたので。

デポバッグを預けて外へ出ると、雨脚は強くなっていた。上下レインで、夜のトレイルへ飛び出す。

A5おぐほたかスキー場エイド〜A6赤倉林道分岐

終わっていた脚は少しだけ回復していた。相変わらず転倒の怪我は痛むものの、ストックは握り込めるようになっていた。左膝の外側も痛むが、接地で工夫して痛みを緩和する。もはや競うどころでもないので、自分なりの良いペースで前進し続けるだけ。後は折れない心だけだ。

ちょっとの登り(といっても高さ100m以上だが)をやっつけた後は、下り基調。その後はロード区間で、だらだらとした登りが続いた。

くたばってしまっているランナーもちらほらだった。へたり込んで道に座りこんでいたり。時々出現する、大会が用意してくれた小さな休憩テントのパイプ椅子は、グロッキーなランナーで埋まっていた。

自分はMFの時と同じく、トメルミンの覚醒効果で眠気は無かった。力強さはないものの、じっくりじっくり前進していた。

シトシトと雨が降り続いていたが、今回は雨対策がパーフェクトで、雨が楽しかった。こんなにストレスのない雨のレースははじめてだなと考えていた。これについては、次回のギア編で詳しくご紹介したい。

A6赤倉林道分岐〜A7ゲストハウス

A6赤倉林道分岐は簡易エイド。A5出発から2時間弱の、0時18分にたどり着いた。

おかゆに梅干しをたっぷり盛って頂く。マカロニスープを楽しみにしていたのだが、マカロニが入ってなさそうに見えたので遠慮した。バナナ、オレンジ、バターロールパンなどしっかり頂く。

ボランティアスタッフに「テントで休まれますか?」と聞かれ、テントを覗いてみると、5、6人のランナーがまるで死んだように眠っていた。毛布でミイラ巻きの人、まじで絶命してないかと不安にさせる、おかしなポーズで固まった人。

自分は大丈夫ですと伝え、強くなってきた雨をギリギリしのげるスペースを確保し、足裏のケアなどを手早く済ませて再出発した。

ここからA7までが長く、長く感じる。ついにトメルミンが切れて、眠気が襲ってきた。MFの時と比べると、前日寝られた時間も短く、今日は早起きしているから仕方ないのかなと、ちょっとがっかりした。

トメルミンもう一錠いっちゃうかと考えたものの、カフェインの致死量とトメルミンのカフェイン含有量が分からず、スマホの電波も届かず、調べられなかったので我慢。

となると眠気を覚ますには、もう歌うぐらいしかない。大きな声で歌っていると恥ずかしいし、こいつ相当疲れてネジぶっとんじゃったのかなと思われそうなので、小さな声で口ずさむ。

こういう時に頭に浮かぶ曲は、子供達が歌っている曲だ。子供達と車で移動中に一緒に歌っている、ポケモンの曲が脳内再生される。
そういえば今アローラ地方の終盤で、博士とサトシがバトるんだって言ってたな。子供達、今日ちゃんと観れたかな。二人で盛り上がっただろうな。
子供達に「パパちゃんとゴールしたよ」って言いたいな、とか考えながら、ゆっくりペースで走り続ける。

日の出はAM5時33分なので、そこまで頑張れば、夜が明けて太陽が昇れば、眠気は飛んでゆくはず。しぶとく歌い続け、走り続ける。

A7ゲストハウスへ向かう最後のパートの、標高図にあるギザギザは油断出来ないぞと前もって身構えていた。
実際はというと、下って、沢を渡って、登り、また同じように下って、沢を渡って...というループが三連発。この手の地形は経験があったので、まだまだ、4発でも5発でも来い!と気持ちは攻めていた。

スタートから25時間経過のAM5:00、A7ゲストハウスへたどり着いてパイプ椅子に座ったとき、側のランナーが「最後、ここに来る直前の上り下り、あれが...やばかったですよ...」とやつれた表情で話しかけてきた。あれはパンチありましたよね、と力なく返事した。

A7ゲストハウス〜A8太郎大日堂

A7には仮眠所があったらしい。覗かなかったが、人の出入りが多かった。危ない道ではないが、限界に来ている人は眠った方が良いだろうなと思った。

A7を出て砂利の林道を下っていると、ついに白々と夜が明けてきた!眠気を押さえ込み、朝を迎えることが出来た。

痛みと付き合い続けながら前進し、W3ウォーターステーションへ到着。ありがたいことに、多少の補給食があった。地獄に仏だった。ただ量は少なく、全員の分までは確保されていない。自分はあんパンをひとつだけ頂いた。力に変わるようにと、ゆっくり咀嚼して食べた。

W3をスタートとしてはじまる鉱石山の登り。これは、前半のスキー場と同じぐらいにきつかった。元気な時なら最高の練習場だろうけど、精根尽き果てているランナー達を打ちのめすには、十分すぎる登りだった。

長い長い登りを終えた後、下りはジグザグ、下りきってロードをしばらく走ると、A8太郎大日堂エイドが見えてきた。
スタートからは29時間06分が経過、時刻は午前9時06分だった。

A8太郎大日堂〜W4ウォーターステーション

A8は120km。残りは23km、あと9時間。これは...ゴールできそうだという実感がわいてきた。しがみついて、前進し続けて、ここまで来られて本当によかった。

エイドのスタッフも一様に「ゴールは確実!」と笑顔で応援してくれた。そうめんが美味しかった。バナナやパンなど、しっかり頂く。

次のW4までは、またもすさまじいトレイルが待っていた。容赦ないアップダウン、ストックにしがみつきながら必死で登らなければならない場面もあった。

ちょっとした下りも、もう走ることは出来なかった。死んでしまった大腿四頭筋を痛めつけながら走り続けて、こんなことしたら明日以降の俺の脚はどうなってしまうんだろう、と不安になるぐらいだった。

珍しく落書きされたマーキング看板が出てきたので足を止めてよく見てみると...

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鏑木剛さんからのメッセージ

なるほど確かにここは群馬県。この地獄のコース設計にも、鏑木さんがかんでいるのかもしれない。

横山峰弘😎「ね、ちょっと鏑木さん。次は140kmに延ばそうと思ってて。今まで以上にランナーを打ちのめす、強烈過ぎるコースにしたいんだけど」

鏑木毅😎「いいね!👍いいルート知ってるよ。例えばさ...」

そんな悪だくみをしている絵が思い浮かんだ。

登り続けてW4へたどり着くと、保守してくれていたのはお二人の老夫婦。お疲れ様です、ありがとうございますと伝える。気温がどんどん上がってきていたので、水切れ寸前だった。周りはみんな同じゆっくりペースで進んでいて、抜きつ抜かれつというのはほぼない。稀に元気に抜かしてゆく人がいて、恐れ入る。

W4〜そして覚醒🔥〜W5〜フィニッシュへ

次はW5。12km先だ。ウォーターステーションをこうやって細やかに配置しているということは、次もおなじぐらい、あっさりとはたどり着させてくれないのだろう。まだまだ削られそうだ。

数人には抜かれつつも、ほとんどみんな同じペースで這うように進む。ただ、誰もが心に穏やかさを取り戻していて、気軽に声を掛け合っていた。どうやらゴール出来そうですね、とか、信じられないですよこのコース設計、とか。

マグオンを摂ってしばらくしてから、残り15kmの看板を過ぎ、最後の最高地点である「浅松山合流」らしき場所の後で、時計を見ながらふと思った。

あれ。これは、序盤で大転倒した時から諦めていた、34時間切りが、もしかして...?

この後は下り基調。2時間程度で残り13km強。

本当にこれは、諦める必要がないのでは... ギリギリ34時間切れる?

これはもう、出し切ってしまいたい、走りたい、走ろう。と考えたときに、スイッチが入った

そうなった途端に、駆け出していた。と同時に、痛みという痛みが感じられなくなった。さっきまで、わずかな下りを一歩歩くだけで激痛に耐え、抜かされても何もできずにヨチヨチと歩いていたのに!自分が信じられない。

一緒におしゃべりしながら歩いていたランナー達に「自分ちょっと、行きますわ」と伝える。いきなり走り始めた自分に、ギョッとしたことだろう。

走り始めて脚が温まってくると、更に走れるようになる。

前をゆくランナー達は、後ろからものすごい勢いで駆けてくる自分の足音に気づいて、驚きながら道を譲ってくれる。

更にガンガン突っ走る。元気な時の、攻めている練習と同じ感覚で走っている。

すごいのは集中力。「どう足を置けば、どれぐらい滑るか」が予測できた。なので深い泥でスリッピーな場所も、攻めながら駆け下ることができた。

数キロ走り、かなり前に自分を抜いていたランナーも捉えて、ひと声掛けて横を突っきる。

登りもちょいちょい出てくるのだが、勢いで駆け登る。駆け登りきれない長い登りは、ストックを使ってガンガン登る。

これがいわゆるフロー、ゾーンに入るというやつか!無限に力がわいてくる。痛みは感じない。一方で、思考は非常に冷静。

面白くて仕方が無い!

高低差図では読めなかったが、意外とタフな登り下りが繰り返される。これをさっきと同じスロー行脚で進んでいたら永遠の時間に感じられただろうが、自分はというと無双状態だったので、さっき一緒に歩いていた皆さんになんだか申し訳なかった。

俺は今グザビエより速いかもしれないとか、レース終盤のスプリットみたら、このパートは1位なんじゃないかと考えながら走る。実際スピードは 4'00"/km〜4'30"/km 出ている。それでも冷静で、もう一段階ギアを上げるとゴールまで持たないかもしれないから、少しセーブ気味に走らなければと考えてすらいた。

触発されてか、抜かした後に猛追してくるランナーもいた。これは尊敬に値する。もしかしてこの人も、ゾーンに入っちゃったかな?しかし、到底追いつけないスピードで突き放し、駆け続ける。

この状態で、1時間近く走り続けたのだが、思っていたより下り基調でなく、登りもあったので、時間計算するとこれはやっぱ34時間は切れないかも?と思ったあたりで、魔法が解けてしまった。

ゾーン時間は有限だったのだ。終了してしまった。

途端にとんでもないことになってしまった...かつて無い痛みが大腿四頭筋に...あ、あ、歩けないー❗❗

呆然自失。なるほど、教訓としては、レース終盤にゾーンのスイッチを入れるなら、フィニッシュゲートに駆け込めるタイミングからでなければならない笑。さすがに2時間もあの調子で走れるわけがない。ロードでも無理だもん。

W5ウォーターステーションへ向かう激下りを、冷や汗だらだらで進む。

W5で水分補給し、最後に小さい登りがあると言われて、横山峰弘さんと鏑木さんを恨めしく多いながら、最後の最後の山、雨乞山へと登ると、それはもう息をのむ大パノラマだった。

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雨乞山からのパノラマ。最後に粋な配慮

遙か彼方までよく見えた。群馬県は本当に素晴らしいなと感嘆して、下りはじめた。

とにかく脚が痛いが、折角ここまで走り続けて時間を稼いだんだから、34時間ちょいぐらいであまり抜かれずにゴールしたいなと考えて、振り絞ってゆっくりだが走り続けた。

残り5kmのマーキング看板が出てきた時、ゴールを確信した。

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142からカウントダウンし、ついに5が

トレイルが終了、ロードに出て、あと2.4kmと告げられた。前後のランナー同士の間は、400mずつぐらい空いているように見える。最後のロードも、ノンビリ歩いていては時間が掛かりすぎる。決して速くはないが、走って、走って、走り続けた。

上州武尊山スカイビュートレイル名物、ゴール直前吊り橋が見えてきた。沢山のスタッフに拍手され、賞賛を浴びながら渡り始める。

吊り橋の後も、多くのスタッフ達が出迎えてくれていた。自然と笑みがこぼれた。ほどなくして、ゴールゲートが待っていた。

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ゴールゲートを追い求め続けた34時間

終わった。途方もなく長かった、遠かった。143km、9200mD+。ITRA申請によれば10220mD+だが。

春のUTMFを大池公園ゴールできなかった後に、もんもんとした悔しさがあった。次はストロングフィニッシュする、そのための練習と準備をする。このレースはそのひとつ、絶対完走すると決めて準備してきた。諦めることなくここまで来られて、ほっとした。

やりきれた自分に感心した。時間は34時間24分、終わってみれば自分にとっては上出来だったと思う。序盤の転倒がなかったらもっとペースが良かったかもとは思うけど、それも含めてまだまだ未熟だったということ。

終盤のフロー状態は大きな収穫だった。あれを今後のレースでもし活用出来たら...そう思わずにはいられなかった。とはいえ極限状態を続けているような状況じゃないと、あのスイッチは入らない気はする。

次回、ギア編にて締めたいと思います。

第六回 上州武尊山140 完走記 1/3【前編】

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ゴールゲート。本当に遠かった、ここまで。

第六回 上州武尊山スカイビュートレイル140、きっちり完走してきました!

時間は34時間24分、総合順位380位(出走848人)。

なお今回の完走率は68%だったそうです。2/3のランナーがあれを完走するんだから、出走者のレベルは本当に高い。

今回このレースへエントリーした狙いは三つありました。

一つ目は、UTMBへ向けた模擬戦です。比較すると、

  • 上州武尊山スカイビュートレイル140
    • 143km / 累積標高差9200m / 制限時間38時間
  • UTMB
    • 距離171km / 累積標高差10300m / 制限時間46時間30分
  • UTMF
    • 距離160km / 累積標高差8000m / 制限時間46時間

まず、上州武尊140を完走できれば、UTMFの完走については何ら不安がないです。どう見ても上州武尊140の方がヘビー。
UTMBは上州武尊140よりはきついのは間違いないですが、山をあとひとつ・ふたつぐらい。
MF → 上州武尊140 → MB はステップアップとしてはよさそう。

二つ目が、UTMBのためのポイント獲得。ゴールすれば6pt。幸運なことに、UTMBへのプレエントリー権利(※二年間で3レース計15pt)の獲得となります。

三つ目は、噂によれば上州武尊山スカイビュートレイル100mileを企画中?
もしかすると、140の完走者か、相応のレベルの実績があれば、次年度以降の100mileエントリー権利を得られそうです。

今回はこの三つの思惑を胸に、レースに挑みました。
しかしながら、当然ではありますが楽なレースではなく。個人的には、過去最大級のキツさでした。
そこそこ走力も経験も高まっているはずの自分が、まるでトレイルランニングを始めたばかりの頃のレースのように、メッタメタにされた(笑)。

今回は、前編・後編・ギア編の三回に分けてレポートをお届けします。

テーパリング

春のUTMFの際のテーパリングに手応えを感じていたので、ほぼそれを踏襲します。

●レース三週間前

  • 最後の追い込み高尾山練習。これ以前から、最低週一回は山に入るように。どれだけロードで追い込んでも、トレイルレースの練習とは趣が違うことを身をもって知っている。山練は大事。なおもっとも負荷を上げたのは、4週間前の富士山練
  • 3〜2週間前の練習量は、通常の週ラン距離の70%に落とす

●レース二週間前

  • 2〜1週間前の練習量は、通常の週ラン距離の50%に落とす
  • 最後の山練習。高尾山、4時間ほど

●レース10日前

  • カフェイン抜き開始。辛い!!

●レース一週間前

●レース3日前

  • CoQ10 ローディングをブースト。標準摂取量の3倍に。

レース5日前から、Garminのトレーニングステータスは「ピーキング」に変化し、過去最高のVo2Maxを計測したため、上手くいっているな!と実感。

またこの時期に、仕事をレースに持ち込まないよう、きっちり納品し、心穏やかな状態にします。
仕事のあれこれが直前に残っちゃうと、精神面で引きづられてしまうので。

一週間前にはレースのための準備・調達もほぼ終えておきます。細々としたものを後から思いついたり、思い出してしまうので、一週間はバッファを設けるようにしています。レース計画も、過去リザルトを元に設計してゆきます。

なお友人数名にレスをもらったのですが、下記の食糧の小分けテクニックについては、後日別の記事で解説します。
我ながら、あまりにも完成度が高まってしまい、便利過ぎたのでノウハウをお伝えしたい(笑)。

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補給食の管理テク。後日、別記事投稿します

前日受け付け

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上州武尊山140,30ブリーフィングの様子

前日に群馬県川場村へ。東京からこんなに近かったとは💦受け付け、ブリーフィングを滞りなく実施。

なおUTMFの経験上、事前にバックパックに綺麗にパッキングしたところで、どうせ必携品チェックでカバンをひっくり返さなければならないので、事前パッキングはしないことに。おかげでスムーズに必携品チェックが済みました。

ブリーフィング終了後、おりょーさんに会ってご挨拶することができました!
今回のレース(もちろん同じ140にエントリー)を含めて、UTMF、ONTAKE100など、ウルトラディスタンスで百戦錬磨のおりょーさんは、華奢で穏やかな雰囲気の女性でした。

明日は2:30には起きたいので、早めの入浴・食事を食べて、無理矢理20:00には床につきます。

AM4:00 レーススタート!

雨、降っていない!最高に嬉しい。もうこの3連休は雨確定、みたいな諦めがあったので。
武尊の神様が粋な計らいをしてくれたのかな。
会場に一番近い駐車場が混むのは予想していたので、早めに移動して駐車後、焦らず身仕度。

AM3:00にデポが締め切られる頃にはもう、スタート地点に向かいます。良いポジション取りをして、序盤は突っ込んでゆく作戦です。

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スタート約1時間前

スタートライン30m以内のところに陣取って、横を見たら目の前にわたDさんw ドラゴン・メイさんもいらっしゃいました。
すると側にウルトラマラソニストNAGAOKAさんも。今日はフィアンセがサポートしてくれるそうです。うらやましい!

そうこうしているうちに、MCの盛り上げもあって会場のボルテージ、そしてランナーの密度も高まってゆきます。

若干しのびないですが、過去ブログ記事から、スタートしてすぐに夜明けという情報を得ていたので、自分はヘッドライトは付けていませんでした。夜明けまでの最初1.5時間は他の人のライトを頼りに走るという、漁夫の利作戦w

気持ちは落ち着いていて、140kmを走る恐怖感よりも、どこまで出来るかなというワクワク感の方が勝っています。
そうこうしているうちに、カウントダウン、そしてAM4:00、ついにスタート!

スタート〜A1〜剣ヶ峰ショック

スタート後、ざっと前方100人以内にはいそうだなというポジションで走る。
このセグメントは、どのレースでも速い(あとでGarminのログを見たら、4'50"/km〜5'20"/kmぐらいで緩い登りのロードを走っていた)。

しかし我ながら絶好調で、まったく苦しくない。心拍は140bpm、普段のイージージョグかそれ以下。全然きつくないし、汗も出てこないぐらい。
ほどなくしてトレイルに入ってゆくが、リラックスして走れていて、ピーキング完璧だったなと感心。

ヘッドライトを付けている二人のランナーの間を走る。「名付けてライト・サンド走法だな😎🎸」とか、ふざけたことを妄想しながら走る。

空の様子から、しらじらと夜明けが近づいているなと感じた頃に、Garminの一時間インターバルアラームが鳴る。これまでのレースでも、練習でも、一時間に1回アラームを鳴らして、機械的に補給するようにしている。周囲のランナーにも同じ補給戦略の人がいるようで、そこら中でピーピー鳴ってる。

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夜明け。もうすぐA1エイド

A1には「良いペースで2時間」の目標。しかし、薄々そうかなと思ってはいたが予定より早く、時刻は5時38分、1時間38分で到着できた。疲労感はほぼなく、計画通りに補給してすぐに出発。

再びトレイルへ。本レース最初のピーク、剣ヶ峰へ向かってゆく。隊列は少し空きつつも、高い走力のランナーが多く、ガシガシとお互いプレッシャーを掛け合いながら進む感じが楽しい。

空が見えてきたところで、剣ヶ峰が遠くへ現れた!快晴!最高の景色。

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明らかにあれだなと分かる剣ヶ峰

標高は2000mほど。周りを見渡せば、息をのむ絶景が見渡せた。

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遙か向こうまでよく見える。剣ヶ峰付近の尾根より。

ほどなくして剣ヶ峰が近づいてきた。手を使って登る、急登だ。

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剣ヶ峰へのラストの登り

登り切ったところで、剣ヶ峰頂上は小さなピーク。しかし景色は最高!

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剣ヶ峰からの素晴らしい景色

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今日は雨だとばかり思っていたのに!

さて、「剣ヶ峰の下りはヤバすぎる」というのは事前に散々聞いていたし、YouTube でも過去大会の様子を見ていたものの、確かにとんでもない下りが待っていた。

ポジション的にはゆっくり降りるのが許されないため、気をつけながらも止まらずに降りてゆく。および腰になっているランナーには、ひと声掛けて抜いてゆく。

まるで落ちるように降りるランナーがいて、目を奪われる。動きが不規則で読めない!しかしこけない。何なんだこの人は。緩急がすごい。ベートーベンと名付けて、ハラハラと見守りながら自分も下ってゆく。

前日までに雨が降っていたこともあり、剣ヶ峰の下りはスリッピー。岩や木が濡れていて、なかなか危ない状況...に対して、注意深く進んでいたのに、やってしまった。

高さ1m程度の岩場を降りるときに、接地で滑って、落ちてしまった。

左の背面を、思い切り岩に刺した。痛みで思わず大声が。スーパー痛い。筋肉の痛みと、擦った皮膚の痛み。
痛すぎて目がチカチカする。少しスピードを落とさざるを得ず、後ろの人を先に送り、ゆっくり降りてゆくことに。

これはまずいなと。ただ、打撲系の痛みは多分、しばらく経てば収まってくるはずと考える。幸い出血はあまりないみたい。ペースを落として下り続けることに。

15分ほど経過。一歩走るとズシン、もう一歩走るとズシンと、背中全体と内蔵にひびく痛みがある。

恐ろしい急登が終わり、ようやく走れる斜度になってきたので、背中の痛みが許す限りのスピード域で走る。

少しガレた下りを、ここは小さいサイドステップで... とした時に、痛恨のミス

左足をサイドステップ気味に置いたときに、おそらく太い木の根があり、そのまま脚が左に流れ、身体は右に向かって宙を舞っての大転倒。一瞬のことで、出来たことは手を着く努力と、視界に岩が見えたので少しでも首をもたげて頭を守ること。しかし、右側頭部をしこたま岩にぶつけながらの大転倒となってしまった。

あまりの痛みに、悶絶。声がでない。ほどなくしてやってきた後続のランナーも、うずくまる自分を見て「大丈夫ですか?!」と声を掛けてくれるものの、応答が出来ないほど。ジェスチャーと目配せをして先へと促し、自分はその場で回復を待つ。

1分ほど経ったか、歩行できるようになった時には、右側頭部と右耳がぐわんぐわんと痛むことと、顎の裂傷。幸い出血は少い。
両手の平、特に小指が打撲でうっ血しており、右手小指については、曲がらなくなってしまっていた。

とにかく痛い。走れないので、とぼとぼと歩きながら、後続のランナーに抜かれてゆく状況に惨めさを感じる。
しかし一方で、逆側にこけていたら沢に転落していただろうし、少しでも頭部のダメージを減らせたのは良かったなとか、ポジティブにも考える。

先ほどの背中の打撲と合わせて、痛みに耐えて、歩いたり、ゆっくり走りながら進んでいると、左膝の外側も痛むことに気づく。

剣ヶ峰の激しい下りで早々に痛めてしまったのか...自分は右脚の膝が痛みがちなので、左脚を先に着くようにしているため、その可能性がある。あるいは先ほどの大転倒が関係しているのか。
直感的には、この痛みが一番まずそう。打撲の痛みはある程度引く。しかし膝はそうはいかない。

やれやれ、これはしんどいレースになりそうだな!と。 まだ23kmの序盤戦。残りは120kmもあるのに。

これが練習なら、今日は下山して休もうと考えるところだが、今回はハナからDNF・リタイアの選択肢は持ち合わせていない。必ず完走する、それだけを考えて準備してきた。

しばらくは、ダメージを注意深く感じとりながら、遅いペースで進み続けることにした。

A2宝代樹エイド〜A3ほたか牧場

ガレた林道を下り続け、武尊山への登り口を横目に遅いペースで下り続ける。しばらくするとロードへ。A2〜武尊山のすれ違いパートだ。

W1ウォーターステーションにたどり着くと、休んでいる人も少なくないが、かなり抜かれてしまった自分に休んでいる暇はない。転倒時に泥だらけになった手や顔を手早く水ですすいで、すぐに飛び出す。

ほどなくして先頭ランナーが折り返してやってきた。なるほど、自分の10kmほど先を走っているらしい。思わず「ファイト!」と声を掛ける。その後もちらほらと、折り返してくるトップランナーとすれ違う。その度に「ファイト!」と声を掛ける。時折、逆に「ファイト!」「ガンバ!」と声を掛けてくれる人もいて、すごく嬉しい。

痛みが身体に響く。元気に走れないので、ゆっくりロードの坂を走り続ける。周囲には歩いている人も少なくないが、大きく遅れた自分に歩いているヒマはないので、痛みに耐え得る限りは走り続ける。

A2宝代樹エイドには、8時55分に到着。ホッとしたのも束の間、目の前のゲレンデを見上げて、焦りの方が強かった。この身体の痛みで、こんなでかいスキー場、登りきれるだろうか。 待ちにまったストック解禁。ストックを組み立ててみたものの、手の平の痛みでストックを握ることすらできない。

先ほどのウォーターエイド同様に、休まず手早く補給してゲレンデへ飛び出した。
ストックを活用して軽快に駆け上ってゆく人を見て恨めしく思いながら、自分のペースで登り続ける。痛みで顔を歪めながら、永遠に感じるゲレンデを登り続ける。

頂上のリフトにたどり着いたときの消耗度たるや、半端なかった。痛みに耐えていたので、消耗が激しかった。
右脚の踵にピリピリとした痛みがあるのも気になっていたので、抜かれるのは気になるが少し頂上で休むことにする。
踵は何のことはない、珍しいのだが靴擦れだった。ひとまず Protect-J1 で応急処置して、様子を見ることにした。

ゲレンデからの下りに差し掛かると、思いのほか大腿四頭筋にダメージがありテンポよく下れない。A2に向う最後の登りロードとこのゲレンデで、消費が早かったらしい。これ以上ダメージを増やさぬようにと慎重に下ってゆき、再びすれ違いパートへ。

まだまだ多くのランナーが、A2へ向かって真剣に走っていた。辛そうな表情のランナーも多い。確かにこのパートはしんどかった。思わず声が出る。「ファイトー!」

すると、ハッとした顔で驚くランナーや、瞬間で「ファイト!」と返してくれるランナー、言葉になってないがおそらく感謝(...ざいます!的な)を返してくれるランナーが。まるで応援合戦。

すれ違う度に「ファイト!」「ガンバ!」「ナイスラン!」と声を掛け続ける。ある女性ランナーにも「ファイト!」と声を掛けたら、返ってきたのは「あ!ぬーいちさーーん!」だったので、驚いて振り返ったらおりょーさんだった!ご友人のランナーと併走しながら、元気な様子に見えた。
自分はというと、実はかなり身体が痛く、頭も回っていなかったので、気が利いた言葉も出てこず、笑顔でガッツポーズ&手を振るのみだった。

そんな感じで、エールを送っているつもりが、沢山の人やおりょーさんから逆に力をもらって、遅くはあるが登りも走り続けられた。応援の力は、尊い

武尊山への分岐に入った後は、徐々に抜かれなくなってきて、逆に数人抜き返しながら走った。背中も手も側頭部も靴擦れも、痛みはするが、スコット・ジュレクは「痛みは、頭の外へ追いやろう」と言っていたので、自分もそうしよう、と考える(でも、どうやって?とも思う)。

ズキンと痛む度に冷や汗は出るし、尋常じゃなく集中力が必要で、疲労度が高い。痛みがなければ飛び越えられる小さな障害物も、慎重に超える。少しでも滑ったら激痛が走るため、慎重に足を置く。

やっとの思いで武尊山頂上にたどり着くと、正直言って疲労困憊だった。情けないが、思わずへたり込んでしまった。

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武尊山頂上、獲るには獲った

しかしながら、武尊山頂上は素晴らしい絶景!見ることが出来て本当に嬉しい。

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武尊山山頂より。圧巻の景色

少し休んで落ち着いた後、再開し、武尊山からの下りを開始する。

消耗度は甚大で、ほとんどのランナーが元気に走りながら下ってゆく中で、ひとりのろのろと走ったり歩いたりする。

残り100kmを示すカンバンが出現した。この身体で、残り100km... あまり考えないようにする。

上で休みすぎたせいか、稜線の吹きすさぶ風が寒すぎる。早めに対処と考えて、一度立ち止まってウィンドシェルを取り出していると、側で休んでいたハイカーの方に話しかけられた。

「頂上は混んでましたかね」
「はい、今日はすみません、トレイルランナーで混雑してます」

「そうですか。今日は皆さん、どちらから?」
川場村から、走ってきました」

「え?それは...かなりの距離があるんじゃ?」
「そうですね、朝から8時間30分ほど走り続けて、いま40kmほどですかね」

「ええっ?それで、どこまで行くんですか?」
「ええと、東へぐるっと回って、再び川場村に戻ります」

「それを、今日中に?」
「うーん、トップ選手は今日中なのかな。私なんかは、明日の夕方ですね」

「??どこかで寝るの?」
「いえ、寝ている暇はないんです」

「.....はー。皆さんとんでもないことをしているんですね」
「すみません、騒がしくて」

「いやいや、お気をつけて。頑張ってください」
「ありがとうございます、そちらもお気をつけて!」

イカーさんに別れを告げて、長い下りを走り続け、A3ほたか牧場エイドへは水切れギリギリでたどり着いた。14時04分だった。

A3ほたか牧場〜A4かたしな高原スキー場での終焉

消耗が激しいので、少し長めに休む。豚汁におにぎりと豆腐をぶち込んでかっこんだ。バナナにオレンジに羊羹など、片っ端から食べる。

左膝の痛みは深刻で、歩くのも痛い。救護に相談しにゆくと、看護学校の学生達が連携プレーでテキパキと診断、処置してくれた。

エイドに入る少し前から、本来A5で摂る予定だったスペシャルサプリ、βアラニンとVESPA、それから芍薬甘草湯をすべて摂ると決めていた。早い段階で疲労・消耗を回復させた方が、後で後悔しない気がする。すべて手早く摂取し、回復に期待する。

30分ほどと長めに休息して、エイドを出発した。予定より遅れているので、ゆっくりでも走らねばと、エイドを出てひた走る。

4〜5km ほど走ると、二発目のスキー場が出てきたが、遠目に見ても洒落にならず、思わず笑いが込み上げてしまった。馬鹿げている!強烈な斜度のゲレンデを、カラフルなトレイルランナー達が一列になって登り続けていた。

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ゲレンデスタート地点より。笑うしかなかった

このゲレンデを見て、精神的に吹っ切れた。もー、限界だ。これ以上自分をかばうのは。こんなに抜かれ続けていて、制限時間の38時間以内にゴール出来るとも思えない。
攻めなければ終わりだ。守ったら終わり。元々守って完走できるレースじゃない。
転倒時の痛みも、左膝の痛みも、やや和らいでいる気もする。

意を決して、このゲレンデはギリギリまで自分を引っ張り上げて、攻めて登ることにする。吉と出るか凶と出るか。うまくいけば、挽回だ。失敗したら、もう前進できないかも。しかし、ジリジリと後退して関門アウトになるぐらいなら、限界ギリギリで攻めてみたい。

どうやったら疲労度は最小限に、早く登れるか探っていたら、小股で登るのではなく、大股で力強く登る方が進みが良かった。ただしやり過ぎると消費してしまう。脚を着く間に、空中で少しでも休ませる。集中、集中。どんどん抜いてゆく。

抜く度に、ギョッとされる。誰一人、こんな勢いで力強く登っていないから。
頂上まで、途方もなく長い登りを休まず登り続けた後は、同じような斜度の下りを元気に駆け下る。これにもギョッとされる。もうみんな、小さく攻めずに下っているので、大きく元気に下っているのは自分ぐらい。

とにかく脚を壊さないように、身体に痛みが響かないようにと集中しながら、ゲレンデを駆け下ってゆく。吹っ切れていて気持ちがいい。ゲレンデに入ってから、30人ぐらいは抜いたと思う。

これが正解だったんだ!もう一度このペースに戻して、34時間切りを目指すんだ。

ついに下り終えると、周囲のランナーは自販機に駆け込んだり、一休みしていたが、自分には休んでいる暇はないぜと第三のゲレンデ、かたしな高原スキー場へと向かった。ここは第一、第二のスキー場と比べてやや小さそうだ。

登り始めたときに、愕然とした。自分の脚は、もう終わってしまっていた。正解じゃない、作戦失敗。凶と出た。

力強さと同時に、ギリギリの強度で登り下りしていたつもりが、全くそうではなかったということだった。
大腿四頭筋はもう終わっていて、まるでほふく前進のように、小さなストライドでしか登れない。下りはもっと悲惨で、一歩ごとに激痛が走った。

残りの距離は?85kmはある。こんな終わった脚で、85kmも前進できるだろうか。このレース、標高差を見る限りは、まだすごい破壊力の山が待っているのに?

A4かたしな高原スキー場への到着は16時33分だった。ここは奥宮さんらFanTrailsが保守するエイド。このエイドは野戦病院化しつつあった。

腐っていても仕方ないので、補給し、椅子に座って準備する。まもなく日が暮れるうえに、雨雲が近づいてきていた。このレース、本当にしんどくなるのはここかららしい。
周囲では、リタイア者が目に付くようになってきた。明らかに迷っているランナーもいる。

自分はというと、雨が降る前に少しでもゴールへ近づきたい、それだけだった。
ヘッドライトを装着し、A4を後にした。

A4かたしな高原スキー場〜A5オグナほたかスキー場

しばらくすると山の中へ。ヘッドライトで足下を照らす。
もうほとんど、抜きつ抜かれつがなくなってきた。マイペースに進み、消耗が激しければ、ペースを更に落としたり、休むことにする。

今日四つ目にして最後のゲレンデ、オグナほたかスキー場の登りは、意外にも舗装路だった。
雨脚が強くなってきたので、レインを着込んで雨から身体とザックを守る。登り切れば、少し下ってA5オグナほたかスキー場エイド。デポバッグも取れる。

いつ終わるともしれない長い長い急坂を登り続けて、終わったと思ったら激下りが待っていた。
脚が終わっている状況から、よくここまで耐えてきたもんだと思いながら、一方でまだレースは半分。どこまで行けるのか甚だ疑問になってきた。

転倒時の打撲は、痛めたばかりのころから比べて気にならなくなっていたが、背中の痛みには時折呼吸を奪われた。膝の痛み、終わった脚の筋肉の痛みは、拷問のようだった。

21時16分、A5オグナほたかスキー場へ到着。17時間以上掛けて、ようやくレースの折り返し地点に立った。

後編へ続く!

UTMF 2019 振り返りと UTMF 2020 に向けて

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UTMF 2019。挑んできましたが、A6忍野エイドで足踏みしていたところでレース中止に。中止後にアナウンスされた区間コース「MF_OSHINO114k」の短縮コース完走という結果となりました。

今回の UTMF がどんなレースだったかは、レース後10日間ほどのわずかな期間で、Blog, Facebook, Twitter, Instagram などで語り尽くされてしまっているので、今更自分が同じストーリーをなぞったところで何の面白みもなく。

手元には6,000文字ほどの文章が出来ていたものの、まだA2麓にすらたどり着いておらず(笑)、書き上がる頃には50,000文字ぐらいの大作、否、駄作が出来てそう。 今回その文章は破棄して、次の点についてブログに書き残したいと思います。

  1. UTMF 2019を自己中心的に振り返る
  2. UTMF 2020に向けて
  3. 最後に

1. UTMF2019を自己中心的に振り返る

f:id:nuichi:20190509144927p:plain 何時間向き合ったか分からない、走行計画シート

46時間制限のこのレースに対して、40時間以内必達、あわよくば38時間以内の完走を設定して入念な計画を立ていた。
この目標時間については、はじめての100マイル挑戦としては、攻めすぎず・守りすぎずといったところか。

しかし今回、レース中止のSMS報が放たれたのは、スタートから27時間18分後の、27日15時18分。
なお、アナウンスと同時に走行停止させられたわけではなく、次のエイドまで進むことができた。
例えばこの時間に終点・大池公園へ向かっていたランナーは、無事終点での完走という名誉を得ている。人数は100名に満たないようだ。

...28時間ぐらいでゴールする計画で走ってたら、大池公園で完走できてたんだな。

数日経ってから、そう思うようになっていた。

28時間00分でゴールするためのペースを、henry王子のUTMFペース計算機(傑作)で確認してみると、ざっくり次のようになる。

  • 昼12:00スタート
  • A2麓(51km)には6時間後の18時頃に到着
  • A3本栖湖には20:30過ぎに到着
  • A4精進湖、23時頃
  • A5勝山、AM2:00前
  • A6忍野、AM5:00前
  • A7山中湖きらら、AM7時頃
  • A8二十曲峠にAM11時前
  • A9富士吉田に午後2:00前
  • →大池公園にて午後4時頃ゴール

これを今回の経験に当てはめてイメージしてみると、

  • 今回自分がA4精進湖に到着した頃(AM4:27)には、二つ先のA6忍野へ向けて、その手前の忍草山を下っていなければならない
  • あの天子山地があるけど、A2麓51km地点に6時間で到達する必要がある
  • A7以降も良いペースで進むことも大事。進行スピードは、試走時のノンビリペースとほぼ同じ(無論、127km走った後ではあるが)

この目安時間は、2018年つまり晴天のUTMFが計算の元データなので、今年は霧・雨・泥によるペースダウンもあったわけだから、今回大池公園完走した人達は本当に強い。「勇者」という言葉が思い浮かんだ。

次の目標は、28時間以内の完走、これにしたい。次もなにも、まだ一度もUTMFも100マイルも完走していないけど。

天候やら、大本営英断と関係なく、ゴールできる力が欲しい。

UTMFを28時間以内で完走する強さ、速さ、計画性、戦略性、マネジメント力。
今回、何が原因かまだよく分からないが、右足の膝裏をしこたま痛めてしまった。これも論外で、怪我をしないこと。

相応の練習計画を立ててゆこうと思う。

来年も当たったとして、24時間ぐらいで中止になったら?いや、そういうのはきりがないので考えない。

今回、UTMF 2019に負けたと思っている。あんなに憧れていたフィニッシャーベストに、袖を通す気も起きない。

もう一度、UTMF 2019に勝ちたい。それを、28時間以内の完走という目標設定で置き換えたい。

今時点、相当な実力差があるのは重々承知なのだが、今回UTMFに負けて火が付いているので、この気持ちを燃やし続けたい。

2. UTMF2020に向けて

こちらは個人的な話ではなくて大会全体について、大きく二つ。

渋滞を考える

f:id:nuichi:20190509144059j:plain W粟倉からA1富士宮間の渋滞

f:id:nuichi:20190509144257j:plain 他人のペースで走る辛さが続く

まず今回、2300人程が出走したかと思うが、

  1. 特に前半、この人数では走れないパートが何ヶ所もあった
  2. 加えてコースの一部、熊森山や竜ヶ岳からの下りなどで、天候による影響があった

天候による影響とは、霧による視界不良と、雨による足下の泥濘である。これは多くの選手にとって精神的ダメージが大きかったので、意見や議論もつきないところだが、

  • 抜本的な解決が難しい地権者問題
  • 出来うる補助策としてのコース整備強化

に落ち着き、それ以上の解はないだろう。

ここでは「2300人が走ることによる渋滞」という問題を考察する。

トレイル渋滞は、高速道路における車の渋滞のメカニズムと似ている。

  • ひとりが下り坂でスピードを緩めれば、後続はブレーキを掛ける必要があり、その後ろは更に強くブレーキを...
  • ひとりが登りでスピードを落とせば、後続はそれに反応してブレーキを掛けて...

このメカニズムは中央道の小仏トンネル渋滞の解説が分かりやすい。

車の渋滞の解消は一筋縄ではいかいないが、我々に置き換えてみた時に思い浮かぶ解消策のひとつは、ウェーブスタートだと思う。

私が過去に走ったロードのフルマラソンで、ウェーブスタートが採用されていなかったレースはなかった。規模的には1.5万人や、レースによってはそれ以上のランナーが参加していながら、重篤な問題(=選手にとって、レース参加の意味やレースの意義すら考えたくなるようなレベルの問題)とならない。ウェーブ設計は、過去のベストタイムを申告して機械的に振り分けられるため、かなり公平だ。

ハセツネ本戦も、近いことを実現するためにウェーブスタートが取り入れられている(ただし、どのウェーブでスタートするかの意志決定は選手自身に委ねられるため、十分に機能はしているとは感じられないが)。

UTMFの場合は、LiveTrail の Goast 機能で予想ゴール時間が出せるわけなので、これがウェーブ作成時に使えるだろう。
最悪、ハセツネの手法でもある程度緩和されそうだ。シンプルに3つだけラインを引いて、28時間、34時間、42時間、それ以上とする。友人と走る場合は、速い人のエリアではなく、遅い人のエリアでスタートすること。

スタート時点のわちゃわちゃとしたお祭り感は少し減るが、全出走者がその後気持ちよく走れる時間が増すなら、トライする価値があるのではないだろうか。ただし話の最初に戻るが、天候系渋滞への好影響は軽微だろう。速いランナーならあの泥濘もスムーズ、とは限らない。

f:id:nuichi:20190509144457j:plain 天子山地の登り渋滞。霧で視界不良

しかし少なくともW粟倉からA1富士宮間のストレスは激減するだろう。私は計画から+1時間程度で抜けたが、これはまだいい方で、中にはもっと時間が掛かった人もいたようだ。

ウェーブスタート以外には、参加人数を大幅に減らすという案が思いつくが、これは発展的な案とは言えないだろう。

課題の再発防止と情報のオープン化について考える

次の問題は、「A2麓で富士宮やきそばが食べられなかった人がいた問題」...という個別の問題ではなく「昨年に引き続き、今年も同じ問題が起きてしまい、選手がもやもやしている点」だ。

UTMFほどのレースとなれば、様々な問題・課題が起きるのは当たり前。再発もあるだろう。

この点で、本部がどういった課題を把握していて、優先度付けしていて、どう解消しようとしているのかがブラックボックスなのが惜しいと思っており、これを解消したい。
焼きそば問題も当然手を打っていたと思うが(参加したとある事前イベントで、実行委員の方からその発言があった)、外からはどのような対策が取られていたのか見えないので、改善提案しようがない。

今時のスタートアップ企業を例に挙げると、企業経営における情報のオープン化を選択する企業が増えてきている。以前は従業員や利害関係者への開示など考えられなかったような機密性の高い情報も、積極的な状況共有や開示を行い、結果的にこういった企業は投資家や従業員からも熱烈に支持されている。
これは利害関係者を巻き込んで風通しを良くするばかりではなく、解決策の収集にも役に立つ。

UTMFほどの大会となれば、大会終了の一ヶ月後あたりで振り返りフォーラムを開催(ネット中継あり)、今大会で起きた課題の共有や、今決めている解決策、まだ解決策が見つかっていないものはどれか、再発リスクがあるものはどれかなどを情報開示するのは、やはり風通しの面でも、より良い具体的解決策を見つけて適用してゆく点でも、有効に思える。

この取り組みが本部主導で実現しづらい(コストやリソースの問題で)なら、ユーザーフォーラムというやり方があると思う。

ただし野良フォーラムではなくて、本部側がその存在意義を理解したうえで、支援していること。

10名程度の委員会を中心に、参加者との意見交換の場の準備・整備、意見の集約、本部への報告、本部の意志決定事項のフィードバックを行う。組織化されていて、きちんと運営されているのは当たり前、次年度・将来に向けた参加者の目線での意見を集約し、本部と課題共有、参加者への伝達ができる、本部からは切り離された関連組織だ。

このような例として身近なのものには、学園と父母の会などがある。父母の会は学園の運営を直接補助する役割を担いながらも、父母や子供達の目線での意見をまとめて、学園と対等に協議ができる立ち位置にある。

リアルなフォーラム開催も年1, 2回はやりつつ、オンライン上にもオープンなディスカッションの場を用意しておく。ZenDeskあたりのツールが妥当そうだ。

トレイルランニングには、関わっているみんなで、レース、そしてこのスポーツ自体を良くしていこうというオープンで協力的な文化があって欲しい。トレイルランニングの精神性としてそう宣言されても、違和感のない考え方ではないかと思う。

(余談) なおせっかくいい話でまとめたのに些末な愚痴だが、個人的には、メダリストがエイドでファストウォーターを提供しなかった点については引っかかっているので敢えて言いたい。提供する気がなかったなら、エイドでの供給予定資料への記載を申告しないでもらいたかった。アテにして計画を立てていたので。メダリスト関係者なら、供給できない(しない?)ことをレース前に分かっていたはず。しかし選手にはアナウンスされなかった。本部に通達していたかが知りたいところだ。

3. 最後に

選手やサポート、ボランティアなどで直接参加していない方には伝わりづらいところだが、UTMFはトレイルランナーであれば、参加してみる価値のある大会だとつくづく感じた。

参加する前は、100マイルという距離におびえていたのだが、振り返ると辛さなど記憶にない。ただただ、楽しかった。ずっと走っていたかった。ゴールしたかった。途中から膝裏が痛くなったのは、情けなくて悔しかった。

リアルやSNSでつながっている友人達、トレイルの意外な場所や農道・車道からの声援、ボランティアの皆さんによる、文字通り無償の支援や応援に、無限に力が沸いてきた。本当に嬉しかったです。ありがとうございました。来年こそは、28時間位内の完走で応えます。

いつまでもUTMFのような優れた体験を残したい。ひとりでも多くのトレイルランナーに、完走してもらいたいと思う(※含む自分w)。そして、リスペクトされるレースであり続けて欲しい。

鏑木さんからのメッセージは、走りながらハッと気づき、運良く拾えたので、共有しておきます。70km地点にありました。

そう、楽しくなければトレイルランニングじゃない!

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