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第六回 上州武尊山140 完走記 2/3【後編】

第六回 上州武尊山スカイビュートレイル140完走記、後編をお届けします。写真が少なくて華やかさに欠け、すみません笑

ほとんどがゾンビの行進で面白味が薄いかもですが笑、後半に覚醒🔥の出来事を書きました。

もし他にもこういったご経験がある人がいたら、このブログか Twitter@nuichi にコメント頂きたいです!

A5おぐほたかスキー場

スタートしてから17時間以上を経過した21時16分、ほうほうの体でレース中間地点のA5おぐほたかスキー場エイドにたどり着いた。

入り口でデポバッグを回収しエイド内へ踏み込むと、まさに野戦病院。床に倒れ込んで熟睡している人。毛布にくるまって震えている人。今にも吐き戻しそうな青白い顔で、ちょっとずつカレーライスを食べている人...

その合間を抜けて奥へと進み、座れる場所を確保。

ふいに、運営ボランティアの男性が「9時30分発川場村行きのバス、まもなく出発しまーーす!」と大声を上げながら入ってきた。ランナーは皆、一様に目が泳いでいた。

そんな誘惑には目もくれず、手早く出発の準備を整えてゆく。着替えを終えて、補給へ。デポバッグには今回初導入の白桃の缶詰(好物)、それとUFO焼きそば。しかしエイドのカレーライスが美味しそうだったので、カレーにウィンナー二本をのせて頂いた。

どうも最近は、ロングレースでも胃の調子がいい。今日も終日そうだが、食べ続けられるのだ。昔はそうでもなく、食が細ったものだが。白桃の缶詰を完食し、カレーもパクパクと平らげる。

疲労した身体を休ませたうえで、美味しいもの食べて身体が温まってしまうと、この後は眠気が来そうだ。このために10日間ばっちりカフェイン抜きをやったので(コーヒー好きには本当に辛かった...!)、トメルミンを飲んでおく。

計35分ほど休んで、準備万端、さー出発という時に、目の前にわたDさんが!

互いにここまでの健闘を称え合う。わたさんは今から計画的に30分だけ寝て、再出発するとのこと。自分は怪我やら脚ぶっ壊れているやらで悲惨なので、早めにもう行くと告げた。

その後ろでボランティアの女性が、リタイアか迷っているランナーに対して「この後の小さな急登が最後で、そこから先はもうきつい登りはないんだから、行くっきゃないよ!」と励ましていた。この時はそうなのかと思ったものの、今なら言えるが、あのランナーそれを信じて出発していたとしたら、よっぽど女性を恨んでるだろうな。破壊力すさまじい登りが、まだまだいくつも続いたので。

デポバッグを預けて外へ出ると、雨脚は強くなっていた。上下レインで、夜のトレイルへ飛び出す。

A5おぐほたかスキー場エイド〜A6赤倉林道分岐

終わっていた脚は少しだけ回復していた。相変わらず転倒の怪我は痛むものの、ストックは握り込めるようになっていた。左膝の外側も痛むが、接地で工夫して痛みを緩和する。もはや競うどころでもないので、自分なりの良いペースで前進し続けるだけ。後は折れない心だけだ。

ちょっとの登り(といっても高さ100m以上だが)をやっつけた後は、下り基調。その後はロード区間で、だらだらとした登りが続いた。

くたばってしまっているランナーもちらほらだった。へたり込んで道に座りこんでいたり。時々出現する、大会が用意してくれた小さな休憩テントのパイプ椅子は、グロッキーなランナーで埋まっていた。

自分はMFの時と同じく、トメルミンの覚醒効果で眠気は無かった。力強さはないものの、じっくりじっくり前進していた。

シトシトと雨が降り続いていたが、今回は雨対策がパーフェクトで、雨が楽しかった。こんなにストレスのない雨のレースははじめてだなと考えていた。これについては、次回のギア編で詳しくご紹介したい。

A6赤倉林道分岐〜A7ゲストハウス

A6赤倉林道分岐は簡易エイド。A5出発から2時間弱の、0時18分にたどり着いた。

おかゆに梅干しをたっぷり盛って頂く。マカロニスープを楽しみにしていたのだが、マカロニが入ってなさそうに見えたので遠慮した。バナナ、オレンジ、バターロールパンなどしっかり頂く。

ボランティアスタッフに「テントで休まれますか?」と聞かれ、テントを覗いてみると、5、6人のランナーがまるで死んだように眠っていた。毛布でミイラ巻きの人、まじで絶命してないかと不安にさせる、おかしなポーズで固まった人。

自分は大丈夫ですと伝え、強くなってきた雨をギリギリしのげるスペースを確保し、足裏のケアなどを手早く済ませて再出発した。

ここからA7までが長く、長く感じる。ついにトメルミンが切れて、眠気が襲ってきた。MFの時と比べると、前日寝られた時間も短く、今日は早起きしているから仕方ないのかなと、ちょっとがっかりした。

トメルミンもう一錠いっちゃうかと考えたものの、カフェインの致死量とトメルミンのカフェイン含有量が分からず、スマホの電波も届かず、調べられなかったので我慢。

となると眠気を覚ますには、もう歌うぐらいしかない。大きな声で歌っていると恥ずかしいし、こいつ相当疲れてネジぶっとんじゃったのかなと思われそうなので、小さな声で口ずさむ。

こういう時に頭に浮かぶ曲は、子供達が歌っている曲だ。子供達と車で移動中に一緒に歌っている、ポケモンの曲が脳内再生される。
そういえば今アローラ地方の終盤で、博士とサトシがバトるんだって言ってたな。子供達、今日ちゃんと観れたかな。二人で盛り上がっただろうな。
子供達に「パパちゃんとゴールしたよ」って言いたいな、とか考えながら、ゆっくりペースで走り続ける。

日の出はAM5時33分なので、そこまで頑張れば、夜が明けて太陽が昇れば、眠気は飛んでゆくはず。しぶとく歌い続け、走り続ける。

A7ゲストハウスへ向かう最後のパートの、標高図にあるギザギザは油断出来ないぞと前もって身構えていた。
実際はというと、下って、沢を渡って、登り、また同じように下って、沢を渡って...というループが三連発。この手の地形は経験があったので、まだまだ、4発でも5発でも来い!と気持ちは攻めていた。

スタートから25時間経過のAM5:00、A7ゲストハウスへたどり着いてパイプ椅子に座ったとき、側のランナーが「最後、ここに来る直前の上り下り、あれが...やばかったですよ...」とやつれた表情で話しかけてきた。あれはパンチありましたよね、と力なく返事した。

A7ゲストハウス〜A8太郎大日堂

A7には仮眠所があったらしい。覗かなかったが、人の出入りが多かった。危ない道ではないが、限界に来ている人は眠った方が良いだろうなと思った。

A7を出て砂利の林道を下っていると、ついに白々と夜が明けてきた!眠気を押さえ込み、朝を迎えることが出来た。

痛みと付き合い続けながら前進し、W3ウォーターステーションへ到着。ありがたいことに、多少の補給食があった。地獄に仏だった。ただ量は少なく、全員の分までは確保されていない。自分はあんパンをひとつだけ頂いた。力に変わるようにと、ゆっくり咀嚼して食べた。

W3をスタートとしてはじまる鉱石山の登り。これは、前半のスキー場と同じぐらいにきつかった。元気な時なら最高の練習場だろうけど、精根尽き果てているランナー達を打ちのめすには、十分すぎる登りだった。

長い長い登りを終えた後、下りはジグザグ、下りきってロードをしばらく走ると、A8太郎大日堂エイドが見えてきた。
スタートからは29時間06分が経過、時刻は午前9時06分だった。

A8太郎大日堂〜W4ウォーターステーション

A8は120km。残りは23km、あと9時間。これは...ゴールできそうだという実感がわいてきた。しがみついて、前進し続けて、ここまで来られて本当によかった。

エイドのスタッフも一様に「ゴールは確実!」と笑顔で応援してくれた。そうめんが美味しかった。バナナやパンなど、しっかり頂く。

次のW4までは、またもすさまじいトレイルが待っていた。容赦ないアップダウン、ストックにしがみつきながら必死で登らなければならない場面もあった。

ちょっとした下りも、もう走ることは出来なかった。死んでしまった大腿四頭筋を痛めつけながら走り続けて、こんなことしたら明日以降の俺の脚はどうなってしまうんだろう、と不安になるぐらいだった。

珍しく落書きされたマーキング看板が出てきたので足を止めてよく見てみると...

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鏑木剛さんからのメッセージ

なるほど確かにここは群馬県。この地獄のコース設計にも、鏑木さんがかんでいるのかもしれない。

横山峰弘😎「ね、ちょっと鏑木さん。次は140kmに延ばそうと思ってて。今まで以上にランナーを打ちのめす、強烈過ぎるコースにしたいんだけど」

鏑木毅😎「いいね!👍いいルート知ってるよ。例えばさ...」

そんな悪だくみをしている絵が思い浮かんだ。

登り続けてW4へたどり着くと、保守してくれていたのはお二人の老夫婦。お疲れ様です、ありがとうございますと伝える。気温がどんどん上がってきていたので、水切れ寸前だった。周りはみんな同じゆっくりペースで進んでいて、抜きつ抜かれつというのはほぼない。稀に元気に抜かしてゆく人がいて、恐れ入る。

W4〜そして覚醒🔥〜W5〜フィニッシュへ

次はW5。12km先だ。ウォーターステーションをこうやって細やかに配置しているということは、次もおなじぐらい、あっさりとはたどり着させてくれないのだろう。まだまだ削られそうだ。

数人には抜かれつつも、ほとんどみんな同じペースで這うように進む。ただ、誰もが心に穏やかさを取り戻していて、気軽に声を掛け合っていた。どうやらゴール出来そうですね、とか、信じられないですよこのコース設計、とか。

マグオンを摂ってしばらくしてから、残り15kmの看板を過ぎ、最後の最高地点である「浅松山合流」らしき場所の後で、時計を見ながらふと思った。

あれ。これは、序盤で大転倒した時から諦めていた、34時間切りが、もしかして...?

この後は下り基調。2時間程度で残り13km強。

本当にこれは、諦める必要がないのでは... ギリギリ34時間切れる?

これはもう、出し切ってしまいたい、走りたい、走ろう。と考えたときに、スイッチが入った

そうなった途端に、駆け出していた。と同時に、痛みという痛みが感じられなくなった。さっきまで、わずかな下りを一歩歩くだけで激痛に耐え、抜かされても何もできずにヨチヨチと歩いていたのに!自分が信じられない。

一緒におしゃべりしながら歩いていたランナー達に「自分ちょっと、行きますわ」と伝える。いきなり走り始めた自分に、ギョッとしたことだろう。

走り始めて脚が温まってくると、更に走れるようになる。

前をゆくランナー達は、後ろからものすごい勢いで駆けてくる自分の足音に気づいて、驚きながら道を譲ってくれる。

更にガンガン突っ走る。元気な時の、攻めている練習と同じ感覚で走っている。

すごいのは集中力。「どう足を置けば、どれぐらい滑るか」が予測できた。なので深い泥でスリッピーな場所も、攻めながら駆け下ることができた。

数キロ走り、かなり前に自分を抜いていたランナーも捉えて、ひと声掛けて横を突っきる。

登りもちょいちょい出てくるのだが、勢いで駆け登る。駆け登りきれない長い登りは、ストックを使ってガンガン登る。

これがいわゆるフロー、ゾーンに入るというやつか!無限に力がわいてくる。痛みは感じない。一方で、思考は非常に冷静。

面白くて仕方が無い!

高低差図では読めなかったが、意外とタフな登り下りが繰り返される。これをさっきと同じスロー行脚で進んでいたら永遠の時間に感じられただろうが、自分はというと無双状態だったので、さっき一緒に歩いていた皆さんになんだか申し訳なかった。

俺は今グザビエより速いかもしれないとか、レース終盤のスプリットみたら、このパートは1位なんじゃないかと考えながら走る。実際スピードは 4'00"/km〜4'30"/km 出ている。それでも冷静で、もう一段階ギアを上げるとゴールまで持たないかもしれないから、少しセーブ気味に走らなければと考えてすらいた。

触発されてか、抜かした後に猛追してくるランナーもいた。これは尊敬に値する。もしかしてこの人も、ゾーンに入っちゃったかな?しかし、到底追いつけないスピードで突き放し、駆け続ける。

この状態で、1時間近く走り続けたのだが、思っていたより下り基調でなく、登りもあったので、時間計算するとこれはやっぱ34時間は切れないかも?と思ったあたりで、魔法が解けてしまった。

ゾーン時間は有限だったのだ。終了してしまった。

途端にとんでもないことになってしまった...かつて無い痛みが大腿四頭筋に...あ、あ、歩けないー❗❗

呆然自失。なるほど、教訓としては、レース終盤にゾーンのスイッチを入れるなら、フィニッシュゲートに駆け込めるタイミングからでなければならない笑。さすがに2時間もあの調子で走れるわけがない。ロードでも無理だもん。

W5ウォーターステーションへ向かう激下りを、冷や汗だらだらで進む。

W5で水分補給し、最後に小さい登りがあると言われて、横山峰弘さんと鏑木さんを恨めしく多いながら、最後の最後の山、雨乞山へと登ると、それはもう息をのむ大パノラマだった。

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雨乞山からのパノラマ。最後に粋な配慮

遙か彼方までよく見えた。群馬県は本当に素晴らしいなと感嘆して、下りはじめた。

とにかく脚が痛いが、折角ここまで走り続けて時間を稼いだんだから、34時間ちょいぐらいであまり抜かれずにゴールしたいなと考えて、振り絞ってゆっくりだが走り続けた。

残り5kmのマーキング看板が出てきた時、ゴールを確信した。

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142からカウントダウンし、ついに5が

トレイルが終了、ロードに出て、あと2.4kmと告げられた。前後のランナー同士の間は、400mずつぐらい空いているように見える。最後のロードも、ノンビリ歩いていては時間が掛かりすぎる。決して速くはないが、走って、走って、走り続けた。

上州武尊山スカイビュートレイル名物、ゴール直前吊り橋が見えてきた。沢山のスタッフに拍手され、賞賛を浴びながら渡り始める。

吊り橋の後も、多くのスタッフ達が出迎えてくれていた。自然と笑みがこぼれた。ほどなくして、ゴールゲートが待っていた。

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ゴールゲートを追い求め続けた34時間

終わった。途方もなく長かった、遠かった。143km、9200mD+。ITRA申請によれば10220mD+だが。

春のUTMFを大池公園ゴールできなかった後に、もんもんとした悔しさがあった。次はストロングフィニッシュする、そのための練習と準備をする。このレースはそのひとつ、絶対完走すると決めて準備してきた。諦めることなくここまで来られて、ほっとした。

やりきれた自分に感心した。時間は34時間24分、終わってみれば自分にとっては上出来だったと思う。序盤の転倒がなかったらもっとペースが良かったかもとは思うけど、それも含めてまだまだ未熟だったということ。

終盤のフロー状態は大きな収穫だった。あれを今後のレースでもし活用出来たら...そう思わずにはいられなかった。とはいえ極限状態を続けているような状況じゃないと、あのスイッチは入らない気はする。

次回、ギア編にて締めたいと思います。